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市子 (2023):映画短評

市子 (2023)

2023年12月8日公開 126分

市子
(C) 2023 映画「市子」製作委員会

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4.5

なかざわひでゆき

あなたのそばにも市子はいるかもしれない

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 同棲する彼氏からプロポーズされ、感動のあまり涙したその翌日、まるで逃げるようにして失踪した女性・市子。その行方を追う彼氏の捜索過程を通じて、市子がひた隠しにしてきた過酷な半生が詳らかにされていく。自分の力だけではどうにもならない境遇を背負った市子とその家族。周囲にそれを訴えることも助けを求めることもせず、取り返しのつかない事態を招くまで追い詰められたのは、社会の問題を自助や自己責任で片づけて臭いものに蓋をせんとする、日本独特の抑圧的な空気ゆえであろう。市子ほどではないにせよ、多くを抱えながら誰にも相談できず、平静を装って生きている人は少なくないはず。その痛みと哀しみに寄り添う作品と言えよう。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

「日本映画」のど真ん中に屹立する新たな名作

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

2023年の日本映画、年末になって超大玉がぶっこまれた。オリジナルは監督の戸田彬弘による2015年の戯曲だが、映像ドラマのダイナミズムに溢れた展開に驚く(ロケ撮影が秀逸)。ヒントになったのは『羅生門』らしいが、むしろ同じ橋本忍の脚本でも『砂の器』に近い。殺人事件の捜索過程が主軸となり、ある人物の知られざる過去や悲惨な生い立ちがせり上がる。その個的な歪みは日本社会の暗部や差別構造に紐付いているという設計だ。

バブル崩壊後の平成の歩みと重なる時間の厚み。ロードムービーの趣もある。長い旅をしたような映画体験。杉咲花をはじめ役者陣も全員最高。熱量の高さと抑制が同時に効いた芝居のアンサンブルが見事だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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