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セールスマン (2016):映画短評

セールスマン (2016)

2017年6月10日公開 123分

セールスマン
(C) MEMENTOFILMS PRODUCTION-ASGHAR FARHADI PRODUCTION-ARTE FRANCE CINEMA 2016

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

清水 節

深層心理の変化をあぶり出すシチュエーション・トラジェディー

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 住居が突如崩壊し始め、夫婦が引越しを余儀なくされる不穏な滑り出し。イラン社会が抱える歪みがドラマの推進力だ。新居で妻は性犯罪に襲われる。古き価値観に囚われた、心の揺れの描写が鋭い。核心を見せぬままミステリアスに語り進め、眩惑する。犯人捜しはやがて夫による復讐劇へと移行し、夫婦間のズレが露わになる。劇中劇「セールスマンの死」が、急激な変化に適応できない現代人を暗示し、社会風刺に奥行きを与える。緻密なシナリオでありながら、俳優陣は監督の操り人形になることなく、複雑な深層心理の変化を自然に表現する。アスガー・ファルハディ監督は、異変に端を発するシチュエーション・トラジェディーの新たな秀作を生んだ。

この短評にはネタバレを含んでいます
なかざわひでゆき

現代イラン社会の「歪み」が映し出すイスラム女性の哀しみ

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 基本は妻をレイプされた夫による犯人捜しを軸としたサスペンスだが、しかしそれは核心となるテーマを引き出すための口実に過ぎない。急速なスピードで近代化を遂げるイラン社会だが、しかしその一方で、都市部に住むリベラルな市民でさえ、いまだにイスラム教の封建的な価値観に縛られて生きている。その大いなる矛盾が生み出す「歪み」を描いた作品だと言えるだろう。
 そのためのモチーフとなるのが、アーサー・ミラーの戯曲「セールスマンの死」。時代に取り残されたセールスマンの葛藤は、現代イラン社会の矛盾に直面した男性の苦悩と密接に呼応し、抑圧の中で生きるイスラム女性の哀しみを浮き彫りにする。重層的な作劇が実に見事だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
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