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河瀬監督らが語る日仏映画合作協定はなぜ必要なのか

映画で何ができるのか

出席者一同
(写真左から)、市山尚三、ミュリエル・メルラン、河瀬直美監督、ロナン・ジール、ジュリエット・シュラメック、澤田正道、ローリー・アデス。

今年2月にフランス国立映画センター(以下、CNC)と公益財団法人日本映像国際振興協会(以下、ユニジャパン)の間で、両国映画人の連携と交流を目的とした日仏映画協力協定が結ばれた。その交換式の前に開催されたのが、河瀬直美監督ら日仏の映画関係者が出席した「日仏映画人交流会」と題したシンポジウムだ。日仏映画協力協定は、両国の映画関係者の悲願でもある日仏映画合作協定に向けた第一歩であるが、ではなぜ合作協定が必要なのか。彼らの発言から紐解くべく、シンポジウムを再録する。

司会:

ロナン・ジール(映画企画コンサルタント)

出席者:(順不同)

河瀬直美(映画監督)
澤田正道(Comme des Cinemas)
市山尚三(Kino International)
ジュリエット・シュラメック(MK2)
ミュリエル・メルラン(3B Productions)
ローリー・アデス(Film France)
クリストフ・タルデュー(CNC元筆頭マネージング・ディレクター)
オリヴィエ・デルプー(在京フランス大使館文化部オーディオビジュアル担当)
写真・構成・文:中山治美

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日本とフランスの交流は密だが、合作協定は…

日仏映画人交流会
フランス国立映画センター(CNC)で行われた日仏映画人交流会。

クリストフ・タルデュー:昨今、日本とフランスの交流はとても濃密で、“ジャポニズム”(19世紀に流行した欧州における日本趣味)は博物館や映画祭、パリ日本文化会館、さらにはパリ市内にある多数の日本レストランなどで、われわれフランス人をいまだ魅惑し続けています。なおかつ、昨年のカンヌ国際映画祭においては是枝裕和監督『万引き家族』(2018)が最高賞のパルムドールを受賞し、それだけでなく70万人超える観客を動員しました。また詩的な日本のアニメーションを象徴するかのような米林宏昌監督『メアリと魔女の花』(2017)は35万人 の映画ファンを魅了し、これらは両国の関係をますます密接につなげるものとなっています。

実際、2018年にフランスで公開された日本映画全体の動員数は214万5,000人という統計が出ています(数字はCNC調べ)。この数字は非常に重要な意味があります。同時に、フランス映画は昨今、アジア諸国に進出していますが日本市場で一番支持されているという状況は変わりありません。両国には素晴らしい監督、彼らを支えるプロデューサーや観客がいるのです。

そうなりますと、ここで日仏合作というキーワードが出てくることを止められません。わたし自身は、日仏映画合作協定は実現すると信じています。それにはあと少し、日本側の映画人の協力や努力が必要になってくるでしょう。幸いにも会場には、国会議員(萩生田光一衆院議員が総理特使として出席)が日本から来訪されており、わたしたちを非常に楽観的にさせてくれています。さらに今夜は、(日仏映画合作協定の条件とされる)文化多様性条約を(日本側が批准されることを)示唆するために、ユネスコのプレジデントがCNCに駆けつけ、日本からのゲストの皆様と乾杯をする予定です。外堀は埋まったと言ってもいいでしょう。

しかしながら合作協定はまだ締結されていないというのが事実ですので、われわれにとって何が武器となるのかを検証したいと思っています。CNCが日本の映画界に大いなる貢献をしていると思われる助成制度シネマ・ドゥ・モンド(外国映画のための助成金)により、河瀬直美、黒沢清深田晃司監督たちなどの作品が生まれ、素晴らしいクオリティーを生み出すことに成功しています。これは(シネマ・ドゥ・モンドが生み出した)力の連鎖です。

そして今日、声を大にして言いたいのは、日本の映画関係者にフランスに映画を撮りに来てくださいということです。われわれはタックスリベート(税制優遇)のシステムを用意しております。最近では是枝裕和監督がそれらの制度を活用して、CNCのある隣の地区で撮影していましたが、非常に良い映画制作環境が整っていると信じています。

今回は、(本交流会主催の)ユニジャパンの友人たちが、こうした映画を通じた友情を証明してくれたことに感謝しつつ、ご列席の皆様に事例や課題をお話ししていただけたらと思います。

ロナン・ジール (以下、ジール):では日本とフランスの、特に産業としての映画についての話をしたいと思います。日仏の友情はすでに温まっております。1950年代にはカンヌ国際映画祭で衣笠貞之助監督『地獄門』(1953)が上映されていましたし、画家の藤田嗣治がエッセイでこんなことを書いていました。1920年代当時、俳優の早川雪洲はすでにスターで、パリの街中を歩いていたら女性たちからサインを求められていたと。フランス人の日本映画好きは今に始まったことでありません。その後も(フランスで活躍したポーランド出身のプロデューサー)セルジュ・シルベルマンは、黒澤明監督『』(1985)と大島渚監督『マックス、モン・アムール』(1986)を製作するなど、恋愛は育まれてきました。

それでは今、フランス人が一番好きな日本の監督にマイクを渡しましょう。『萌の朱雀』(1997)でカンヌ国際映画祭のカメラドール(新人監督賞)を受賞した河瀬直美さんです。

>次ページは「映画は世界の共通言語」

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