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アカデミー賞にふさわしい!?予想をはるかに上回る展開と現代社会が向き合うべき問題を風刺『スリー・ビルボード』

第90回アカデミー賞

『スリー・ビルボード』
アメリカの田舎町で起きた未解決の殺人事件。そこで立ち上がった被害者の母ミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)『スリー・ビルボード』より - (C) 2017 Twentieth Century Fox

 次に何が起こるのか……。ふだん映画を観慣れた人なら、そんな予想を頭に巡らせながらスクリーンと向き合うことも多く、予想どおりの展開に納得する楽しみもある。しかし今作は、次々と予想のワンレベル上を行く脚本や演出が用意され、ジェットコースターのような高揚感が途切れることがない。サスペンスと復讐劇、家族ドラマ、コメディーにアクションと、映画のあらゆるジャンルを包括しながら、作品のムードがどんどん転換していく。一見、統一感がなく、破綻しかねない作風ながら、ムードが変化することで、観る側の「快感」になっていく。その奇跡に驚くばかりだ。(文:斉藤博昭)

 娘を殺した犯人が捕まらないことから、3枚のビルボード(看板広告)で警察署長へ抗議するミルドレッド(フランシス・マクドーマンド)。その行為に反論する者がいれば、さらに強力な意志で容赦なく歯向かう。映画の主人公としては過激すぎて感情移入しづらいのだが、愛する娘を失った絶望から立ち上がるには、ここまでの行動も必要なのだとじわじわ理解していく。こうして心とは裏腹に過激な主人公に共感してしまうように、『スリー・ビルボード』には、多くの相反するテーマが共存している。「スリルと笑い」、「バイオレンスとやさしさ」、「愛と憎しみ」、「復讐と許し」、「寛容と不寛容」……。それらが見事にストーリーの中で機能するのはもちろん、観ているわれわれの心に潜む、表と裏、相反する2つの感情を刺激してくるのだ。

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『スリー・ビルボード』
人望の厚いウィロビー署長役のウディ・ハレルソン(左)だが……『スリー・ビルボード』より - (C) 2017 Twentieth Century Fox

 セクシャルマイノリティーや異人種など、自分と他者が違っていること、その切実さと喜び、満足感が、巧妙に脚本に編み込まれていることにも感心する。そして本来なら最も怒っていい人物が、目の前の相手を許す瞬間、その感動はただならぬものとして迫ってくるのだ。登場するほぼすべての人物が、自分自身の怒りと向き合い、その怒りの感情を変化させるので、キャストたちも演じ甲斐があったことだろう。演技賞に値する複雑な表現を、複数のキャストが披露し、ここでも観る者の心をわしづかみにする。

『スリー・ビルボード』
ミルドレッドと対立する人種差別主義者の警察官ディクソンを演じるサム・ロックウェル(左)『スリー・ビルボード』より - (C) 2017 Twentieth Century Fox

 相反要素が共存し、人々の心が変化する作品の中で、ひとつだけ貫かれたテーマもある。それは異なる価値観の他者を認めること。まさしく現代社会が向き合うべき問題を、これだけ予測不能な物語で語った作りは、アカデミー賞にふさわしい。

『スリー・ビルボード』
遅々として進まない捜査に業を煮やしたミルドレッドが取った行動とは!?『スリー・ビルボード』より - (C) 2017 Twentieth Century Fox

 舞台は中西部のミズーリ州と、まさに「アメリカ」的な場所だ。しかし冒頭にアイルランド民謡「庭の千草(夏の名残りのバラ)」が流れるなど、イギリス出身のマーティン・マクドナー監督の、どこか外側からアメリカ社会を見つめようとするクールな眼差しもあり、その視点が、物語のムードとは異なる、爽快感極まりない結末を導いたのではないか。賞を受賞するかどうかにかかわらず、まぎれもなく2017年のアメリカ映画を代表する傑作である。

 次に何が起こるのか……。できるだけ物語の予備知識を入れずにスクリーンに向き合えば、本作に出会った喜びも大きくなるにちがいない。

アカデミー賞有力!映画『スリー・ビルボード』予告編

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