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権力に弾圧された芸術を守れ!実話に基づくショートフィルム『管理人 / The Caretaker』

10分の極上無料短編映画体験

ブリリア ショートショートシアター オンライン × シネマトゥデイコラボ企画

 新年度が始まってもうすぐ3週間。特に進学や就職で環境が変わった方にとっては、疲れがたまっている頃ではないだろうか? 新年度のバタバタが一段落したら、ショートフィルムで一息ついてみてはいかがだろうか。映画を通してキャラクターや製作者に向き合う時間、そして自分自身と向き合う時間。ショートフィルムを観て、自然と内から湧き上がってくる声に耳を澄ませてみたい。観る前と後とでは、日常の景色もほんの少し違って見えることだろう。

 今回はショートフィルム専門のオンラインシアター Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)で無料配信中の3作品を紹介する。

※ご注意 この記事は作品についてのネタバレが含まれる内容となります。

権力から芸術を守れ!実話に基づく物語『管理人 / The Caretaker』

管理人
『管理人 / The Caretaker』より

『管理人 / The Caretaker』
監督 ローランド・プクナット
製作年 2020年
製作国 ドイツ
上映時間 約18分
配信期間 4月6日~7月6日

 1930年代、独ハンブルク市最大の美術館で、前衛芸術家アニタ・レーの作品がナチスに没収されようとしていた。管理人のヴィルヘルム・ヴェルナーは、作品を守るために自らの命を危険にさらす。実話に基づく物語。

 主人公のヴィルヘルムは凡庸を絵に描いたような雑務担当の美術館員。時は第2次世界大戦を目前にしたドイツ。ナチスが権力を握りユダヤ系の芸術家が排斥されるが、ヴィルヘルムは芸術家の遺志を引き継ぎ、作品を守るため、ある冒険的な行為をする。英雄は目立つ存在ではなく、市井に生きる小さな人々の中にいる。そんな感慨を残す作品だ。

 歴史の話なので理解には知識が必要だが、背景を知っているとより深く楽しめる。ヒトラーは、「非ドイツ的」「ユダヤ的」「共産主義的」と分類した近代芸術作品を「退廃芸術」として排斥し、5,000点以上の作品が押収され、焼却処分されたとされる。また、登場人物のアニタ・レーはハンブルク生まれのユダヤ人画家で、1910年代~1920年代に地元ハンブルクで活躍したものの、ナチス政権に芸術界を追われ、1933年に自殺をする。本作の後半は、彼女が亡くなった後の世界を描いている

 ところで、BSSTOでは、この4月からLINEオープンチャットを使用して感想のシェア会を行っている。そこで視聴者から提起された視点が面白かった。「ヴィルヘルムを監視する親ナチの美術館員が、実は隠れた主人公ではないか?」という視点だ。表向きは体制支持派に見えて、実は時代を憂い、芸術を擁護するレジスタンスなのではないか? というもの。これは、視聴者をあっと言わせるひねりであった。

 この映画が伝えたいことは、言論封鎖がされる彼の国に住む人々を鼓舞するようなメッセージではないだろうか。大きな権力によって小さな存在が抑圧されることに、日本人も人ごとであってはいけない。

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人を信じる複雑さを描く『二人のオーディション / Blind Audition』

二人のオーディション
『二人のオーディション / Blind Audition』より

『二人のオーディション / Blind Audition』
監督 アンドレアス・ケスラー
製作年 2017年
製作国 ドイツ
上映時間 約17分
配信期間 4月13日~7月13日

 バイオリンのソリスト同志のカップル、ロンとアリ。二人はオーケストラのオーディションに参加する。愛し合う二人がライバルになる時、彼らの関係性にも少しずつ変化が起こる。

 同じくドイツの作品。「どんな結果でもわたしたちは恋人」と口ではいうものの、ライバルになった恋人の存在は、どうしても気にかかるようで冒頭からピリッとした空気が流れる。オーディション直前、オーケストラの団長がロンだけをこっそりと別室に呼び出して、「君を通すから、(ブラインドオーディションで)君だとわかるように鉛筆を落とせ」と持ちかける。そのやりとりにドアの向こうから聞き耳を立てる彼女のアリ……という何とも一波乱ありそうな展開に。

 実力勝負をするか裏道を使うかの間で逡巡(しゅんじゅん)するロン。ロンを信じるか信じないかの間を行き来するアリ。どれだけ一緒にいる時間が長くても、迷ってしまうのが人間なのだなと複雑な思いがした。ふたりの出した結論は果たして……。

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諦めた幸せへの鍵、舞い込むとしたら?『アガタ / Agata』

アガタ
『アガタ / Agata』より

『アガタ / Agata』
監督 ジャコモ・ボエリ
製作年 2016年
製作国 イタリア
上映時間 約15分
配信期間 4月20日~7月20日

 田舎に住む40歳の孤独な女性・アガタのもとに、謎の金属製シリンダーが誤って届けられる。その奇妙な物体は、自家受精のための低温精液保管容器であることがわかる。アガタは、未踏の道へ踏み出すことになる。

 「ショートフィルムは短いからこそ、初期衝動で作れる」とは、自身も作品制作を行う俳優・斎藤工さんの言葉だが、思いつきに近い「もしも」でも、ショートフィルムではちょうど良い余白を残して描くことができる。そんな作品をわたしたちは「もしもシリーズ」と呼んでいるが、本作はSF系の「もしもシリーズ」作品だ。

 晩婚化が進んだ先進国では、生涯子供を持たない人も多い。独立した人間として自分のキャリアを築いているうちに、家庭を持つことから遠ざかったまま出産可能年齢を超える人もいる。子どもを産めるか産めないかのボーダーが、女性にとっては焦りの元になるようで、40歳を過ぎて「子どもが欲しい」と婚活をする知人がわたしの周りにもいる。そんな主人公アガタに訪れた「もしも」のチャンス。一度は受精キットを捨てるものの、執着心がまさってゴミ置き場から苦労して回収してくる。コミカルに描いているが、そこにあるのは切実な心情だろう。

 子供がいる方や、まだ若い方々には、「もしも、自分が主人公アガタだったら?」と想像してみていただきたい。映画が持つ「もしも」の力は、観る人の想像する力を刺激し鍛えることにあると思う。

 映画がどう解釈されるのかは、受け手の知識や感受性に依存するところが大きい。製作者の意図が正確に伝わるのは良いことだと思うが、製作者の器を超えて多様な解釈が広がる楽しみ方も、ショートフィルムにはある。

 まずは事前知識を入れずに観て、自由な解釈を楽しむ。その上で周辺情報を調べてもう一度観てみる。正解のない問いを楽しむ大人の遊びを皆さんもしてはいかがだろうか?(大竹悠介)

今回紹介した各作品は「Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE」で配信中。

Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE公式サイト

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