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『ウエスト・サイド物語』が時代を超えて語り継がれる理由

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ウエスト・サイド物語
第34回アカデミー賞で全10部門で受賞した『ウエスト・サイド物語』(1961)(C)United Artists / Photofest / Zeta Image

 ブロードウェイのミュージカルを映画化し、第34回アカデミー賞において作品賞、監督賞、助演男優&女優賞など全10部門を受賞した『ウエスト・サイド物語』(1961)。70ミリフィルムのダイナミックな映像と数々の名曲に彩られ、ウィリアム・シェイクスピアの「ロミオとジュリエット」を基にした王道のラブストーリーは、人種問題や銃の暴力など現代にも通じるタイムレスな傑作だ。(冨永由紀)

 1957年初演のミュージカルは、1950年代のニューヨークを舞台に、二つの不良グループ(白人グループのジェッツ、プエルトリコ系移民たちのシャークス)が激しい抗争を続ける中、ジェッツのリーダー・リフの親友のトニーと、シャークスのリーダー・ベルナルドの妹のマリアの恋物語だ。

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ウエスト・サイド物語
対立するプエルトリコ系移民グループ・シャークスのリーダー、ベルナルド(チャキリス)と、リフ(タンブリン)率いる白人グループのジェッツ(C)United Artists / Photofest / Zeta Image

 漆黒の画面に口笛が響くと、映画はまるでオペラのように、序曲から始まる。20世紀クラシック界を代表するレナード・バーンスタイン作曲の音楽も主役の一つなのだ。5分間かけてイエロー、オレンジ、レッド、パープル、グリーン、そしてブルーと鮮やかな色がゆっくりと変化しながら、タイトルが登場し、次に見えてくるのはマンハッタンの光景。アルフレッド・ヒッチコックマーティン・スコセッシ作品で知られるデザイナー、ソウル・バスが手掛けている。鳥瞰で街並みを追う映像はやがて地上のバスケット・コートに降り、通りへと移動し、対立する二つのグループの青年たちを捉える。ほとんどセリフも歌もなく、音楽とダンスだけ。ワイヤーを使っているのかと思うほど伸びやかな跳躍、縦横無尽に彼らを追うスピード感あふれる映像は壮観のひと言。自宅のテレビやPCで観ても迫力は伝わるが、画面が大きくなればなるほど、その魅力も増幅する。特に、物語の実際の舞台であるニューヨークの街でロケ撮影をしたこのオープニングの迫力は比類ない。

 ジェッツのリーダー、リフ(ラス・タンブリン)とシャークスのリーダー、ベルナルド(ジョージ・チャキリス)や双方のメンバーたちは紹介されるが、肝心の主役の登場はしばらく経ってから。まずは、ジェッツの元リーダーでリフの親友トニーが出てくる。不良から足を洗って真面目に働く青年を演じるのはリチャード・ベイマー。そして、ベルナルドの妹で、アメリカに来て初めてのダンスパーティーへの出席に胸を躍らせているマリアが登場する。当時すでに若手スターだったナタリー・ウッドだ。

ウエスト・サイド物語
ロミオとジュリエットにあたる、トニー(リチャード・ベイマー)&マリア(ナタリー・ウッド)(C)United Artists / Photofest / Zeta Image

 ブロードウェイ公演の主演俳優は2人とも当時30歳前後だったが、映画のキャストは若さを重視し、23歳だったナタリー・ウッドとリチャード・ベイマーが起用された。ただ、2人の歌は全てジミー・ブライアントマーニ・ニクソンの吹き替えになっている。アイオワ出身のベイマーは見るからに純朴で、ワルを卒業したタフさはあまり感じさせない。実際に歌いながら、自身の声が採用されず激怒したというウッドだが、表情の一つ一つが本当に魅力的だ。ダンスの見せ場もそれほどない2人だが、クローズアップに映える美貌と口パクをそうと感じさせないなりきりぶりで、映画というメディアでの主役にふさわしい仕事をしている。

 物語は「ロミオとジュリエット」をなぞる形で、両グループが集結するダンスパーティーでの出会いやバルコニーでのロマンティックな逢瀬、恋を成就させるためにグループ間の抗争を止めようとするトニーの行動が裏目に出て……と展開していく。普通に芝居しているのが突然歌い出す、というスタイルが苦手な人もいるだろうが、本作の持つリアズムとミュージカルの非現実感のバランスは絶妙。ジェッツとシャークスの争いが頂点に達し、決闘の末に悲劇が起きる場面では、一連の動きはダンスのように流麗でいて、ナイフを振り回す若者たちにみなぎる殺気や恐怖はとてつもなくリアルだ。

 監督にはロバート・ワイズジェローム・ロビンスがクレジットされている。ワイズは『市民ケーン』(1941)などを手がけた編集者出身で、『キャット・ピープルの呪い』(1944・日本劇場未公開)で監督デビュー以来、サスペンスやSFを手がけたが、ミュージカルの演出経験はなかった。原作者の1人でブロードウェイのミュージカル版で演出を務めたロビンスは映画監督の経験がなく、両者が互いを補完し合う形となったが、撮影半ばで、ロビンスのダンス・シークエンスへのこだわりから予算オーバーとなり、ロビンスは現場からの離脱を余儀なくされた。だが、ワイズはロビンスの貢献に敬意を表し、共同クレジットとなった。ワイズは1965年の『サウンド・オブ・ミュージック』でアカデミー賞を再び受賞している。

 オリジナルのミュージカル版のクリエイターたちは皆マンハッタンの人々だった。原作者であるロビンスとアーサー・ローレンツ、作曲家のレナード・バーンスタイン、そして作詞のスティーヴン・ソンドハイム。不良の若者たちと移民人口の増加が彼らのインスピレーションだった。実は1940年代後半、ロビンスたちによって最初の構想がなされた時のタイトルは『イースト・サイド物語』。ロウアー・イースト・サイドを舞台に、ロビンスやバーンスタインのルーツであるユダヤ系とカトリック教徒のアイルランド系のギャングの争いという、宗教に重点を置いた構造だった。だが、1950年代のアメリカでは人種差別がより現代的な問題だった。この構図は、白人貧困層と移民の分断化が著しい現在のアメリカにまた当てはまるものになっている。かくして、アッパー・ウエスト・サイドのリンカーン・スクエア付近を舞台にした「ウエスト・サイド物語」が誕生した。映画は当時リンカーン・センター建設のために再開発が進む中、取り壊し予定のビルなどを使って撮影が行われ、今やこの映画の中にしか存在しない風景も収められている。

 キャストに話を戻すと、リフ役のタンプリンはもともとトニー役のオーディションに参加し、最後の5人(彼とベイマーのほかはウォーレン・ベイティ、アンソニー・パーキンス、トロイ・ドナヒュー)に残ったが、選ばれたのは最も無名だったベイマーだった。ベイマーとタンブリンは約30年後の1990年、デヴィッド・リンチ監督のテレビシリーズ「ツイン・ピークス」でも共演し、昨年放送された「ツイン・ピークス The Return」にもそろって出演している。

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アカデミー賞助演女優賞を受賞したリタ・モレノをはじめ、屋上でのジャークス&その恋人たちのダンスパートは圧巻!(C)United Artists / Photofest / Zeta Image

 舞台版からそのままキャストに起用された俳優も何人かいる。ベルナルド役でアカデミー賞助演男優賞に輝いたチャキリスは、ロンドン公演でリフを演じていた。彼もウッドも出自はラテン系ではなかったが、ベルナルドの恋人アニタを演じたリタ・モレノはプエルトリコ出身で、本作でアカデミー賞助演女優賞を受賞。ラテン系女優として史上初の快挙だった。

 映画化にあたって、当時のセンサーシップに引っかかりそうな過激な歌詞はマイルドに書き換え、楽曲の順序や歌い手の変更も行われている。顕著なのは、トニーとマリアが、彼女の働くブライダルショップで結婚式の真似事をする場面で歌う「Somewhere」だ。「わたしたちのための場所が、どこかにある」と歌うのは、舞台版では名もない女の子という設定だが、映画ではトニーとマリアのデュエット。愛し合いながら、身を置く境遇から引き裂かれる2人がすがろうとする希望の切なさ、悲劇性が強く伝わってくる。

 2016年7月、映画芸術科学アカデミーで本作の70ミリプリントが上映された際のパネル・ディスカッションで、製作総指揮を務めたウォルター・ミリッシュは映画化を決めた理由として、「アメリカにおける人種問題を語る絶好の機会になると思った。観客に作品から学び取ってもらえるのではないかと考えた」と語った。そして人種間の対立と銃暴力が激化する現在の社会状況を見るにつけ、本作が「当時よりも今日的な意味を帯びている気がする」と話している。

 時代を先取りした今日的な点はもう一つ。ジェッツの取り巻きに女の子が1人いる。メンバーのガールフレンドではなく、一員になりたいというキャラクターだ。ショートカットで服装も少年そのものの彼女はエニバディーズという名前で、メンバーたちにからかわれても必死でついていき、一度ならずトニーの窮地を助ける役目も果たす。彼女の性的指向への言及はないが、血気盛んな不良少年グループの中に敢えてトランスジェンダーのキャラクターを置いたのは興味深い。ロビンス、ローレンツ、ソンドハイムも製作当時には同性愛者であることを公表していなかった(バーンスタインはバイセクシャル)ことを思うと、エニバディーズのキャラクターに込められた意図を推察したくもなる。

 今年1月、スティーヴン・スピルバーグ監督が本作のリメイクの準備を進めていると報じられた。今回は設定に忠実に、ラテン系の俳優たちを起用したい意向と言われ、「glee/グリー」のナヤ・リヴェラがSNSにオーディション用の動画をアップして名乗りを挙げたのは記憶に新しい。ミリッシュの言う通り、何も学び取らず同じ過ちを繰り返し続ける社会にとって、『ウエスト・サイド物語』は世代を超えて受け継ぐべき宝だ。

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