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恐怖のピエロが全米で社会現象化…『IT』大ヒットの理由は?

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『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 モダンホラーの帝王スティーヴン・キングの傑作「IT」を初めて映画化した『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』が、全米でホラー映画として初めて興行収入3億ドル(約330億円)を超える大ヒットとなっている(10月29日時点での累計興収は3億2,000万ドル・約352億円)。R指定映画としても『パッション』の3億7,000万ドル、『デッドプール』の3億6,300万ドル、『アメリカン・スナイパー』の3億5,000万ドルに次ぐ記録を更新中だ。先日、人気コメディー番組「サタデー・ナイト・ライブ」で、トランプ大統領の顧問ケリーアン・コンウェイが『IT』のモンスター・ペニーワイズになって、CNNのキャスター、アンダーソン・クーパーを、映画の中と同様に、下水の中に誘き寄せるという大爆笑のコントをやっていたり、ペニーワイズのマスクが今年のハロウィーンの一番人気になったりと、全米での『IT』人気は、ホラーファンの枠を完全に超え、ほとんど社会現象化している。(取材・文:細谷佳史)

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巨大な下水道のセットにピエロ…撮影現場に潜入

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 原作では、田舎町デリーを舞台に、ピエロの姿をして子供たちを誘惑して食べる、不気味な存在のペニーワイズと戦う主人公たちの<子供時代>と<成年時代>が交錯して描かれるが、「第一章」とタイトルのついた本作は、子供時代のみの物語として構成されている。ティーンエージャーのビルは、ある日突然行方不明になった7歳の弟ジョージーが今でもどこかで生きていると信じ、友人たちを伴って下水の排水口を探索に行く。そして、不良たちのいじめから逃げてきたサムと出会う。サムはデリーで昔から続いている子供が消える事件を調べていて、ビルたちは自分たちがその事件の原因であるペニーワイズに狙われていることに気づき始める。ペニーワイズの存在を信じない大人に頼れないビルたちは、自分たちだけで立ち向かうことにするが……。

 昨年、本作を撮影中の現場を訪ね、監督やプロデューサーに話を聞いてきた。カナダのトロント市内から車で10分ほど行ったスタジオに着くと、ペニーワイズの住処となっている巨大な下水道のセットが組まれていて、本作がホラー映画としてはかなりスケールの大きな作品であるのが伝わってきた。その日はちょうど、ビル・スカルスガルドステラン・スカルスガルドの息子であり、アレキサンダー・スカルスガルドの弟)演じるペニーワイズが、地下室に溜まった水の中から飛び出すという、映画の中でも特に印象的なシーンを撮影していた。特殊メイクを施し衣装を着たまま、泥水に頭まで浸からなくはならないビルにとって、体力的にかなりハードな撮影だったが、全く不満を漏らさず、毎テイク100%で演技に打ち込む姿に感心させられた。

 ギレルモ・デル・トロがプロデュースしたホラー映画『MAMA』で注目を浴びたアルゼンチン出身の監督アンディ・ムスキエティは、物語の設定を原作の50年代から80年代に変えることで、より彼自身にとってパーソナルな作品になったという。

「本の中には素晴らしいものがたくさんある。でも物語には、彼(スティーヴン・キング)の子供時代の経験を表したとても独特なものがある。恐怖やモンスター、全てのクリーチャーは、50年代の子供の想像によるもので、僕にはそういった経験はない。僕は80年代に育った。だから、これは違う恐怖による違う物語なんだ。それは違う世界で、新しいものが入っている。そして、その新しいことのいくつかは、僕自身の経験なんだ。子供の時にダークで怖いものに惹きつけられたことと関係している。だから、映画の中に出てくる多くの恐怖は、原作にはないものなんだ」

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 本作の魅力の一つは明らかに、主役の子供達のリアルで生き生きとした演技だ。ムスキエティ監督は、子供達に多くのアドリブをさせることで、彼らから素晴らしい瞬間を引き出すことに成功した。

「僕はシーンを膨らませていくことにとてもオープンだ。時々、やってみて、何も起きないこともある。でも時々、何か全く予想していなかったことが起きるんだ。役者たちにアドリブさせる自由を与えなければ絶対に出てこない何かがね。そしてそのおかげで、僕にとって、単なる繋ぎで何の意味もないシーンが、最も興味深いハイライトになったりした。そこにはたくさんのユーモアが入っている。なぜなら、役者たちの何人かはそれを止めることが出来ないからだよ。彼らがアドリブを始め、冗談を言い始めたら、僕はそれを推し進めて、もっとそういったことを活気づけるようにしたんだ」

 『高慢と偏見とゾンビ』の原作者で、『ダーク・シャドウ』や『レゴバットマン ザ・ムービー』の脚本家として知られるセス・グレアム=スミスは、本作ではプロデューサーとして、ムスキエティ監督が参加するかなり前から脚本開発に関わった。膨大な量の原作を子供時代と成年時代の2本の映画に分けることは、そのプロセスの初期の段階で決まったようだ。

「原作は1,100ページぐらいあり、大人と(子供の時の)記憶の間を、つまり1985年と1955年の間を行ったり来たりする。もし、そのストーリーの全てを1本の2時間の映画に押し込めようとしたら、多くのものを外さないといけない。でもこのやり方だったら、彼らが自分たちの人生で2度にわたってペニーワイズと戦うのを、一つの大きなストーリーとして一気に語れる。だから、そうすることが理にかなっているように感じたんだ」

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 今回の映画化にスティーブン・キングはどのくらい関わっているのだろうか? スミスは「招待状は送ったけど、スティーブンはまだ現場には来ていない。彼が現場に来るのはいつでも大歓迎だよ。でも僕の理解では、彼は人生のこの時期において、こういったこと(自分の作品の映画化)を、(フィルムメイカーに)そのまま自由にやらせることに、とても満足している。彼はとても協力的だ。彼は、僕らの脚本に対して『とても満足している』といったメモを送ってきた。『プレミアにジーンズを履いていってもいい?』といったメモと一緒にね」と笑った。

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リアルなお化け屋敷まで登場…アメリカ人はピエロが大好き

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』

 今回の『IT』の映画化が大成功した理由は、まず、怖いだけでなく、多くの人たちが楽しめる娯楽性に富んだ作品になっている点が大きかったのではないだろうか。ホラー要素のないキングの原作を映画化した秀作『スタンド・バイ・ミー』のような、思春期の子供たちを主人公にした青春映画の面も持つ斬新なホラー映画は、普段ホラーを見ない観客たちにとっても魅力的だったに違いない。また、ティム・カリーがペニーワイズを演じた1990年のテレビシリーズ版は、その当時、多くのアメリカの子供達にトラウマを与え、ペニーワイズの不気味なピエロの強烈なイメージを人々に植え付けた。その結果、実際にテレビシリーズ版を観たことも原作を読んだこともない人たちでも、かなりの人たちがペニーワイズのイメージだけは知っていたようだ。昨年、新作のペニーワイズのメイクのイメージが、EW.comで初めて発表された時、『スター・ウォーズ』やマーベル作品をしのぐアクセス数となったそうで、製作元のワーナー・ブラザースはかなり前から、本作の大ヒットを予想していたようだ。

『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』
ハリウッドの街角に登場した『IT』屋敷。中には不気味なピエロたちが… - 写真:細谷佳史

 また、9月の頭から約1か月間、ハリウッドの街角に『IT』に出てくるニーボルト・ハウスを再現したアトラクションが登場し、一般の人たちに無料で開放された。足を踏み入れると恐ろしい劇中シーンが忠実に再現されており、プロモーションのためにだけにここまで凝ったアトラクションを作ったことにびっくり! 連日長蛇の列がでる人気となっていた。

 今回の大ヒットの後、ワーナーは、第二章となる2016年を舞台にした成年期の物語の製作を正式に発表。ムスキエティ監督が再びメガホンをとる続編は、2019年9月6日に全米で公開が予定されている。それぞれのキャラクターをどんな大人の役者たちが演じることになるか、今後のキャスティングが大いに楽しみだ。(数字は Box Office Mojo 調べ、1ドル110円計算)

映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』は公開中

(C)2017 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

【今月のHOTライター】
■細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。

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