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勝新太郎はやっぱり唯一無二!超絶クール映像で大立ち回り! - 『座頭市地獄旅』

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 “座頭市”と聞いたらたいていの人が、「盲目の按摩(あんま)でものすごく強いんだよね!」と、ときどき白目をむきながら見えない目でまばたきをする勝新太郎の姿を思い出すだろう。でも本当は北野武版の映画『座頭市』(2003)しか観てなかったり、綾瀬はるかの『ICHI』(2008)や香取慎吾の『座頭市 THE LAST』(2010)をきっかけに勝新版へたどり着いた人もいるのかも。最近では映画監督である三池崇史演出&リリー・フランキー脚本&市川海老蔵主演で歌舞伎が上演されるなど、座頭市人気はいまも健在。1962年の『座頭市物語』に始まり(とおに半世紀をこえている!)1989年に勝新自ら監督した映画『座頭市』まで26作を数え、同じ勝新主演でたびたび連ドラ化。その頂点とも思えるシリーズ12作目『座頭市地獄旅』(1965)が超絶クールなのだ。(浅見祥子)

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座頭市
『座頭市地獄旅』 価格 ¥2,800+税 発売元・販売元 株式会社KADOKAWA

 色味を落としたモノクロに近い映像。夜の闇に紛れ、刀を構えた数人のヤクザに囲まれた市が電光石火の早業で男たちを一網打尽に。額を割られて顔を歪め、恐怖に目を見開き、それぞれに息絶える男たちのどアップが重なる。首なしの地蔵の横に立って刀を鞘に納める市──ずいぶん不穏な始まりである。 

 “座頭”とは江戸時代における盲人の階級で、この映画の主人公である市は諸国を旅する流しの按摩(あんま)。この日は江の島へ向かおうと船に渡した2本の板に足を踏み出すが、案の定ぐらついて落ちそうに。そこへ通りかかった浪人に助けられ、「“渡る世間に鬼はない”、ありがとうございやす」──これが市と十文字糺(ただす)の出会いとなる。

 『座頭市地獄旅』は市と謎の浪人である十文字との友情のようなものが描かれ、やがてそこにそれぞれが過去に犯した罪からくる、死の匂いが漂う人間ドラマが絡む。まずは十文字演じる成田三樹夫にしびれてしまう松田優作が主演した伝説の連ドラ「探偵物語」で「工藤ちゃ~ん」と怪しくしなをつくる服部刑事を演じたのだが(知ってる?)、実はこの人、あの東京大学をドロップアウトしたインテリだったりする。

 将棋ばっかりさしているのにふとした瞬間の眼光は鋭く、低音ボイスが腹に響き、その表情にはいつでもぬぐいきれない虚無が漂う──この映画の成田はゾクっとする色気に満ちている。そんな彼が演じる十文字は、同じく将棋に“目がない”市とすぐに意気投合。市は盲目だから「8二飛車」「7三歩」と口頭で互いに駒を進めていく。十文字は待ったなしの早指しで相手を攻めに攻め、得意の一手になると右手で鼻の横をスッとなでて、その指をパチリと鳴らす癖がある。劇中で何度も登場するこの仕草が格好いい! しかもそれは物語に仕組まれたある謎へのヒントになっていたりする。

 そして勝新太郎だ。市は盲目だから基本的には目を閉じている。白目をむくまばたきもそうだが、えへへへっと妙に愛想のいいときと殺気を感じてサッと全身に緊張を走らせるときの表情の落差、当たり前だが目を閉じたままでそうした緩急自在な表現をサラリとやってのける。極端にガニ股の歩き方や必要以上に盲目の不便さをアピールするときのぎこちない動きには愛嬌もあって笑わせる。勝新くらいになると、目のお芝居が封印されるくらいがいいのかも。でないと存在が際立ち過ぎて、クサい芝居になりかねない。例えば道中で出会っていっとき行動を共にするお種(岩崎加根子)への好意を思わず口にしそうになり、慌ててたくあんを放り込んでごまかす仕草なんてなんともかわいい。このときの勝新は30代前半、まさに稀代のスターということか。

 もちろん仕込み杖を使った殺陣も目を閉じたまま。勝新の動きにキレがあるのは当然だが、三隅研次監督の演出がまたべらぼうにシャープだ。夜、背丈ほどにすっとのびた草が無数の黒い縦線をつくる池の畔で、刀を持った大勢にまたも囲まれた市が、切って切って切りまくる。しびれる~。殺陣のシーンだけではない。構図がいちいちキマった映像は、物語の緊張感を明らかに高めている。

 お種が連れている少女ミキは市とヤクザのいざこざに巻き込まれて負傷し、その傷はやがて破傷風に。市はミキのために高額な薬代を稼ぎ(当然ヤバい方法で)、箱根へ湯治に連れて行く。そこで出会った若侍の佐川友之進(山本学)は、妹の粂(林千鶴)と亡き父の仇討ちを心に誓っている……。例えば粂がお種に旅に 出たいきさつを宿の玄関で語るシーン。二人を映すカメラがレンズをそのまま二階へ向けると、そこには二人の話に耳を傾ける十文字の姿が! まるでカメラも演技をしているようだ

 やがて市は十文字に疑いの目を向け始める。そのほんの少しの心の揺らぎを十文字は見逃さない。相変わらず片手枕で将棋なんかさしているのだが、市が部屋を出たとたん、背中に一瞬の緊張が走る。廊下でそれを感じる市の足元! 腹ばいになって頭上の刀に手を伸ばす十文字! その気配を感じて仕込み杖に手をかける市の横顔! 少しの間を置き、ゆっくり刀から手を遠ざける十文字……おぉ!? この一瞬の殺意の交換の間ふたりは一言も発せず、カメラが表情を捉えるのも最小限。なのにどちらもめっぽう腕の立つ者同士であることが伝わってくる。どんな分野でもいい。常人の及ばない域に達し、だからこそ孤独な者同士だけがやりとりできる絆のようなものがこの二人にはあるように見える。そして最後にはきっと、命をかけた切り合いになるだろう予感をはらんで心がザワつくのだ。「好きな相手は切らんよ。切っちまうと、好きな相手がいなくなっちまうもんな」という十文字のセリフも思い出されて切ない。

 お種とミキと共に箱根を後にし、峠を歩きながらまた脳内将棋をする市と十文字。この映画に名シーンは数多い。『丹下左膳』シリーズ等で知られる映画監督でもある伊藤大輔の脚本はとにかく素晴らしく、『眠狂四郎』『子連れ狼』シリーズを手掛けた三隅研次の演出は隅々まで冴えわたる。だからこそ勝新の演じる座頭市の凄味が際立っている。ハンディーを逆手にとってときにトリッキーな闘い方をするけれど(火鉢の灰を振りまいて相手の目つぶしをするとか)、仕込み杖から繰り出す超高速の抜刀術で一撃必殺。脛に傷はたっぷりあって悪い奴らに容赦はないが、小さき者や弱い者には誠実で優しい。このギャップあるキャラクターを、勝新は緩急自在で愛嬌たっぷりに演じる。あの白目を むいたまばたきを多くの人がモノマネするけれど、勝新を超えるのはやはり簡単なことではない

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