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「ウエストワールド」、全裸のタンディ・ニュートンが高評価!

厳選!ハマる海外ドラマ

ウエストワールド
娼館のマダムとして働くアンドロイドを貫禄たっぷりに演じたタンディ・ニュートン

 『ワンダーウーマン』(上映中)の全世界大ヒットはもはや一つの事件だが、闘う女性はテレビ界にもたくさんいる。『ワンダーウーマン』でも印象に残る女戦士を演じた、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」の政界の頂点を目指すクレア役のロビン・ライトもしかり。ドラマだと、どちらかといえばキャラクター的には絶賛アンチヒロインの時代だけれど。

 第69回エミー賞で最多22部門のノミネーションを獲得したSF大作「ウエストワールド」の女優陣、主演女優賞候補のエヴァン・レイチェル・ウッドと助演女優賞候補のタンディ・ニュートンは、その筆頭。西部開拓後の時代をモデルに作られた広大なテーマパークで、創造主=神である人間たちに支配され、客を喜ばせるためにのみ存在するアンドロイドを演じる2人は、言ってみれば自分たちを虐待する支配者=エスタブリッシュメントに立ち向かうファイターなのだ。T-REX並みの破壊力を持つドロレスを演じたウッドも素晴らしいが、登場シーンの半分以上は全裸!? という娼館の女主人メーヴが大変カッコイイ。演じたタンディの力強いパフォーマンスが印象に残るし、本作において共感しやすいキャラクターでもあると思う。これまでにも映画やドラマでセクシャルなシーンを演じてきたタンディが、暴力と裸満載の本作でのメーヴ役に挑んだ背景を考察してみたい。

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ウエストワールド
同じくアンドロイド役のエヴァン・レイチェル・ウッドが主演女優賞候補に

 巨費を投じた「ウエストワールド」は、昨シーズンの有料ケーブル局HBOの目玉商品。HBOといえば「ゲーム・オブ・スローンズ」だし、今年のエミー賞では「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」「ビッグ・リトル・ライズ ~セレブママたちの憂うつ~」などが候補になっていて秀作の代名詞でもあるが、ドラマファンなら「過激なバイオレンスと裸」と思い浮かべる人も多いはず。地上波に比べて表現の規制が少ないことから可能になるのだが、本作の暴力描写は想像以上にエグい

 とりわけ女性アンドロイドがこれでもかと痛めつけられるさまには、思わず目を背けたくなるシーンも。でも、考えてみれば「自分が何者であるか」を知ることができる場所がウエストワールド。人間が本質的に持っている暴力性や残酷さをさらけだし、視聴者に突きつけるという意味では、かっこいいとかエロティシズムにおおっ! となるようには作られていないのかも。ウエストワールドなんて、ちっとも楽しくなさそうに見えることが正解で、来訪者たちの残虐行為は、やがて起こるであろうアンドロイドの反逆として奢れる支配者どもに戻ってくると考えれば、納得できるかもしれない。

 タンディふんするメーヴは、娼館の女主人として切り盛りする姉御肌の女性としてプログラムされている。ぱっと目を引くのは派手な衣装で、いかにもサロンのマダム風。コルセットにたくさんのラッフル(ひだ)、超ミニスカート、ガーター、網タイツにヒールのフル装備は、素敵だけれど窮屈そうだし、いかにも官能的で男性の視線を引くためのものだ。タンディは、この美しい衣装を毎日着るたびに「パワーを削がれた」とインタビューなどで語っている。それはコスチュームが官能、あるいはセクシズムを表してもいるから。メーヴは中身なんて関係なく、商品として、性的対象として見られることを強いられた女性の“器”ととらえることができる。だから、本作について「窮屈な衣装を脱いだ方が、むしろ居心地の良さを感じた」といったタンディの言葉を、そのままの意味だけで受け取るべきではないだろう。

ウエストワールド
銃がめっちゃ似合います!

 服装が精神に与えるダメージについては、9月公開の映画『ドリーム』の描写にも明らか。職場での服装が決められていた女性たちが、仕事場をヒールで歩き回る姿に感じる不自由さ、窮屈さ。一般論として仕事の時は疲れない靴がいいし、ヒールの靴でおしゃれして外食したい日もある。でも、それは自由意志で選択可能であるべきなのだ。昨年のカンヌ国際映画祭のレッドカーペットで、ジュリア・ロバーツが裸足で歩いた理由を今一度思い出してみて欲しい。自分からやるのか、強いられてやるかには雲泥の開きがある。そして、タンディはメーヴ役を自ら選択して演じた、そこが大事な点なのだ。

 メーヴの全裸シーンは、メンテナンスを受けるシーンが主となるので性的だったり官能的ではない。セックスシーンはあるが、アンドロイドだから中性的だし、基本的にセクシャルな要素は薄い。また、全裸であることは物語に説得力をもたせるという意味でも必要だから、もちろん単に話題性だけをねらったものではない。現場では、クリエイターのジョナサン・ノーランリサ・ジョイの手厚いサポートがあったこと、スタッフが繊細かつ細心の注意を払っていたという(当然なされるべき配慮だが)。また、実際には衣装部によってファーのついた小さなビキニを着用するなどの工夫がなされていたとか。

ウエストワールド
エミー賞受賞に期待!

 タンディは駆け出しの頃に、ある監督のスクリーンテストを受けた際に、性的虐待の被害を受けた過去を2016年の雑誌のインタビューでオープンにした。しかも数年後、その監督が自宅で開いたパーティーで、プロデューサーなど集まった人々に当時の映像を見せて楽しんでいたことを知り、愕然としたというのだ。心の底から怒りがこみ上げてくる話だが、当時はやらなければ役をもらえないと思い込んでいた、忘れて前に進もうと思ったというのもわかる。それでも10代になった娘たちのことも考えて、こうした事態を受け入れるべきではない、一人でも被害者を減らしたいという気持ちで告白したという。こんな話は、いくらでもあるんだろうな……。

 ここからは想像ではあるけれど、そうした背景を考えたとき、タンディは最大の理解者である夫(英監督オル・パーカー)と愛する子供たちの存在もあって、この役に挑戦することで女性たちにパワフルなメッセージを伝えているように感じるのだ。「何も恐れていない」「恥ずべきことはない」という強い気持ち、女優として、人としての自尊心が伝わってくるような。そして、メーヴの“自我の目覚め”は“母性”と強く結びついている点も、タンディにとって重要な意味を持つのではないだろうか。そんな彼女が、どんな思いを役に重ねて演じたのかを改めて考えるとき、何て尊く勇気のある挑戦なのだろうと感動を覚えずにはいられないのだ。

 タンディは、プライベートでは女性への虐待撲滅キャンペーン「ワン・ビリオン・ライジング(One Billion Rising)」に熱心に取り組んでいることでも有名。近年、女性の人権をサポートする著名人が、自らの選択として露出の多いセクシャルな姿でメディアに登場すると非難の声が少なからずあがるが、個人的にはナンセンスだと思うし、もちろんタンディには当てはまらない。そもそも脱いだから評価されているのではなく、アンドロイドであることの説得力があって、メーヴが“本物”である瞬間の心の揺らぎを伝える演技が素晴らしいのだ。

 支配されることに抵抗し、自由のために闘う賢くて、残酷で容赦ないメーヴ。文字通り体当たりで臨んだこの役で、嬉しいエミー賞初ノミネートを獲得したタンディの挑戦は、オンスクリーンでもオフスクリーンでも女性たちに勇気とパワーを与えてくれる。

ウエストワールド
エミー賞最多ノミネートの「ウエストワールド」

「ウエストワールド」(原題:WESTWORLD)
BS 10 スターチャンネルにて毎週金曜よる11:00 ほか放送中(吹替版も毎週水曜よる11:30 ほか放送中)
huluでシーズン1が配信中

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。「BAILA(バイラ)」「日経エンタテインメント!」ほかで執筆。著書に「海外ドラマ10年史」(日経BP社)。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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