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吉岡里帆、役者として常に自分との戦い

吉岡里帆
吉岡里帆 - 撮影:高野広美

 辻村深月の同名小説を映画化した『ハケンアニメ!』において、アニメ業界で奮闘する主人公の不器用さや湧き上がる情熱を見事に表現した吉岡里帆。「私自身も不器用なタイプだなと思いますし、『これくらいじゃダメだ』と自分を追い込んでしまうクセがある」とひたむきに役者道を邁進している。吉岡が「日々が自分との戦いのよう」と厳しさを感じている一方、「たまらなくワクワクする」という女優業への思い。そして30代への展望を明かした。

吉岡里帆の透明感…!インタビューカット【写真】

不器用なタイプと自己分析

吉岡里帆 - 撮影:高野広美

 最も成功したアニメの称号=ハケン(覇権)を手にするべく、作品づくりに打ち込む人々の姿を描く本作。吉岡は新人監督の斎藤瞳を演じ、瞳の憧れであり、ライバルとなっていくスター監督の王子千晴を中村倫也が演じている。

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 朗らかな笑顔を封印し、メガネにパーカーという地味な出立ちで日夜仕事に走り回る瞳を熱演した吉岡。負けん気が空回りしたり、現実の壁にぶち当たる瞳のもがきには共感できることも多かったそうで、「若くもなく、ベテランでもない、その狭間で人を引っ張っていかなければいけない年代。年齢的にも共感するところもありますし、良いものをつくるためには、どうしたってエネルギーを持って向き合わないといけない、というプレッシャーもわかります。やはりものづくりって途方もない作業なので、私自身その途方もなさを現場で感じることもたくさんあります」と瞳に心を寄せる。

 演じる上では「いつでも希望を忘れない、諦めないという雑草精神を大事にしていました」という吉岡だが、瞳の不器用さも自身と重なるものだという。「私にとって役づくりにかける準備期間はとても大切なもので、自分の中できちんと咀嚼しないとうまく表現に向かえない。不器用ですよね」と苦笑いを見せる。

原動力は「この仕事が好きだから」

吉岡里帆 - 撮影:高野広美

 吉岡は、俳優業という表現の世界に生きる上で“勝ち負け”を意識することはあるだろうか?

 「人と比べても仕方ないということはわかっているので、それはしないです」と切り出し、「外に対しての勝ち負けは意識しませんが、『これくらいじゃダメだ』と思ったり、自分に対して追い込みグセがあって。毎回、前回よりもっと面白いものを作れるように成長していきたいと思っています。そうやって日々自分と戦っている」と告白した吉岡。「周囲の人からは『もっと楽に物事を考えてもいいんじゃない?』と言われることもあります。でもいつも課題を持って作品に取り組みたいんです」と俳優業は正解やゴールのない仕事だからこそ、葛藤し続けているという。

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 「でもこのお仕事をしていると、皆さんリラックスしているように見えても、内心では戦っている人が多い」と続ける。まさに本作の王子もそういった人物で、表面上は軽やかに見えながらも、裏では生みの苦しみを味わい、あらゆる重責を感じている。吉岡は、王子を演じる中村もとても努力家だと語る。「中村さんはみんなの前では飄々とされていますが、相当な努力の時間があって、あの雰囲気が生まれているような気がしていて。舞台『狐晴明九尾狩』でご一緒した時には、誰よりも早く来て殺陣の練習をされていました」。

 なんとも厳しい世界にも思えるが、原動力となっているのは「このお仕事が好きだから。それに尽きます」と笑顔を弾けさせる。「私は役者のお仕事というよりも、映画や舞台などの作品たちを作っているという事柄に対して、憧れを抱いていて。ものづくりに携わっているみんなの姿や、その現場自体もかっこいい。照明部さん、録音部さん、撮影部さんなどなど、各部署の皆さん本当にかっこいいんですよ! それぞれの能力が一つになった時の爆発力を一度体験してしまうと、『こんな奇跡が起きるならもっと頑張りたい』『この人たちと一緒にお仕事をする人生がいい!』と思う。そのためには、求められる人でいたいなと思います」と撮影現場の職人たちから、いつも刺激をもらっている。

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30代は「意味のない時間を過ごす勇気を持ちたい」

 瞳は、アニメは「一人でつくっているのではない」と仲間の存在を知ることで成長していく。吉岡にとって、自身が成長できた転機として挙げるのが、悪女の有朱を演じたドラマ「カルテット」だ。

 吉岡は「強烈な悪女を演じたんですが、視聴者の方々にそれを面白がって観ていただけたことは、自分の中で自信にもなりました」としみじみ。「人生、チョロかった!」という名言も生まれたが、吉岡は「こんなこと言って大丈夫なのかな? と不安になるくらいインパクトのあるセリフですよね(笑)」と笑い、「でも、それぞれが物語のスパイスやエッセンスを担っていて、自分がどう見られるかよりも、作品の一部として面白い存在でいられたらいいんだと思えた。嫌な部分を面白いものとして見てもらえることだってできるし、なんて面白い仕事なんだろうと思いました」とものづくりの醍醐味を味わった。

 現在29歳となった吉岡。作品に愛と情熱を注いでいく人々を描く本作に携わったことは、30代に向けての「大きな力になる」という。「面白い作品を届けることって、たまらなくワクワクすることなんだと思いましたし、そのワクワクする気持ちを表現する作品に参加できたことは、今後へのお守りになるんじゃないかと思っています」と嬉しそうだ。

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 30代の希望は、「がむしゃらに、できるだけ多くのものに挑戦するという20代を過ごしてきました。30代は、自分の好きだと思うものをもっと洗練させていきたいなと思っています。そのためには、少し意味のない時間を過ごしてみたいなと。意味のない時間って、実はものすごく楽しさや尊さがあるものですよね」とにっこり。「知らない場所に行くことを増やしてみるのもいいかもしれないですね。お仕事の自分ではなく、プライベートの自分として向き合って、新しいものに触れてみたい。30代は、意味のない時間を過ごす勇気を持ちたいなと思っています」と目尻を下げる。真面目で、好きを貫くためにいつも全力で作品に挑む。そんな吉岡が演じたからこそ、本作の瞳は見る者の心をわしづかみにするほど輝いている。(取材・文:成田おり枝)

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