略歴: 東京の出版社にて、月刊女性誌の映画担当編集者を務めた後、渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスターのインタビュー、撮影現場レポート、ハリウッド業界コラムなどを、日本の雑誌、新聞、ウェブサイトに寄稿する映画ジャーナリスト。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。
前三部作の大ファンとして、シーザーのレガシーに大きな敬意を払いつつ新しいアプローチをしたことを歓迎。シーザーの話は悲しく、暗かったが(そこが良いのだが)、今作は若者の成長物語。ロードムービー、冒険映画の雰囲気もある。その過程で変化していく主人公を演じるオーウェン・ティーグは見事。ポストプロダクションで猿のCGを施されてはいても、目など細かい表情は明らかに優れた俳優のもの。アクションのこなし方も最高。エンタメでありながら現代社会につながる何かがあるのもこのシリーズの魅力。古い教えを都合良く捻じ曲げて大衆を操る悪役の様子も、まさにそれ。次でもっと深掘りされそうな要素を感じるので、続編が楽しみ。
壁の向こうはアウシュビッツ強制収容所。映画はそこで起きていることを見せることはせず、音で伝える。その音は1日中聞こえてくるのに、隣に住むナチ将校の妻はまるで気にせず、「またイタリアを旅行したい」と寝室で楽しそうに夫に話し、自慢の庭園で赤ちゃんに花の匂いを嗅がせる。人はいかに都合の悪いことから自分を切り離せるものなのか。照明を立てず、固定カメラで淡々と一家をとらえる独特な撮影のやり方は、彼らをひたすら冷静に、客観的に見つめさせる。重要なキャラクターである音響(この部門でもオスカーを受賞)を邪魔しないため 、音楽は映画の最初と最後のみ。その強烈な音楽も、今見たものを胸に押し付けてくる。大傑作。
ビートルズに関するドキュメンタリーの中でも、これはユニーク。ジョン・レノンと一時期深い仲だった中国系の個人秘書メイ・パンの視点から、この恋の始まり、彼女が見たレノンとヨーコ・オノ、レノンとポール・マッカートニー、レノンと長男ジュリアン、またビートルズが正式に解散した時のことなどが、多数の写真、アーカイブ映像、アニメーションとともに語られていくのだ。そんな中では、家の中でレノンが見せたダークな側面にも触れられる。パンが涙ながらに語る真剣な恋の終わりは、とても切ない。一方でそこにはまだ腑に落ちない部分もあり、レノンから話を聞けない以上、本当のことがわかる日は来ないのだとも感じる。
退役軍人がそのスキルを使って悪いことに手を染めるという設定はよくあるものの、これはありがちな犯罪アクション映画というより、人間ドラマ。アクションも出てくるしそれらのシーンは緊迫感があるが、過去の決断への罪悪感、昔は仲が良かったのに今や疎遠になってしまった息子との関係やPTSDに悩む主人公をメランコリックに描く部分こそ、この映画の強み。時々時間を逆戻りさせる語り方は、何が彼を苦しめるのかを見せる上で効果的。そんな心の内を、サム・ワーシントンが、静かに、ニュアンスを持って表現する。今作で監督デビューを果たす元ラグビー選手で俳優のマット・ネイブルも、主人公の元戦友役として良い味を出している。
ごく普通の私なのにスーパースターに見初められちゃった、というのは多くの人が持つ夢。25年前には「ノッティングヒルの恋人」がヒットした。だがこの映画は一段とハードルを上げる。なにせ女性が16歳も上なのだ。一般人同士であってもあまり例がないのに、超ホットなミュージシャンの男性からグイグイ押され、プライベートジェットで世界を旅するなんて、中年女性にとっては最高の妄想物語ではないか。そこに浸るのは良いが、この映画の中年女性は美しきアン・ハサウェイであることを忘れないように。ただ、男女が逆なら、この年齢差はこの映画の主人公ほどには責められないはず。社会にあるそんな女性差別に触れているのは良い。