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カンヌ国際映画祭、ティム・バートンの審査委員長の選考ポイントは「ファンタジー要素」

第63回カンヌ国際映画祭

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コンペ作はどれもすばらしい作品。果たしてその監督の最高作かが問われる-ティム・バートンの審査委員長
コンペ作はどれもすばらしい作品。果たしてその監督の最高作かが問われる-ティム・バートンの審査委員長 - Photo:Harumi Nakayama

 第63回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の審査委員長を務めたティム・バートン監督ら9人の審査員が現地時間23日、会見を行った。バートン監督は最高賞のパルム・ドールにタイのアピチャッポン・ウィーラセタクン監督『アンクル・ブンミ・フー・キャン・リコール・ヒズ・パスト・ライブス』(英題)に与えた理由について「世界はより小さく、より西洋的で、ハリウッド的になっていると感じる。でもこの映画は私が見たこともない、ファンタジーの要素があり、それは美しく、奇妙な夢を見ているようだった」とほかの作品にはない独創的な世界に心奪われたことを明かした。

第63回カンヌ国際映画祭 コンンペ作

 『アンクル・ブンミ・フー・キャン・リコール・ヒズ・パスト・ライブス』(英題)は、ウィーラセタクン監督が自身の短篇『ブンミおじさんへの手紙』を基にしたファンタジーストーリー。タイの山間に住むブンミおじさんのもとに、ある日突然、亡くなった妻と行方不明になっていた息子が帰って来るのだが、息子の姿が類人猿という新種のクリーチャーに生まれ変わっていたという大胆な発想が見る者に驚きを与える。そして彼らは病に苦しむブンミおじさんを迎えに来たかのように、おじさんと共に再び姿を消す。実は今年のコンペ作はケン・ローチ監督『ルート・アイリッシュ』(原題)とダグ・リーマン監督『フェア・ゲーム』(原題)がイラク侵攻問題、ラシッド・ブシャレブ監督『アウト・サイド・オブ・ロー』(英題)がアルジェリア独立問題に絡んだ報復劇など戦争やテロを題材にした作品が多かった。ヤクザの抗争劇を描いた北野武監督『アウトレイジ』しかりだ。そんな中で幻想的に、タイの歴史問題をにおわす『アンクル・ブンミ~』は異彩を放っており、ファンタジーの鬼才バートン監督好みの作品と言える。受賞の瞬間にはプレスからも拍手喝采が沸くという、美しい光景が見られた。

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 また今年のコンペ作19本には、マイク・リー監督、ケン・ローチ監督、北野武監督、アッバス・キアロスタミ監督といった世界の映画祭で数々の賞を受賞してきた巨匠たちの名が並んだ。彼らの新作は決して出来が悪いワケではないのだが、彼らの最高傑作とは言い難い。その場合、せっかく賞をあげるのならばと、フラッシュな才能に授与する傾向にある。優秀監督賞を受賞した、『オン・ツアー』(英題)のマチュー・アマルリック監督がその代表だ。優秀男優賞のスペイン俳優ハビエル・バルデムと優秀女優賞のジュリエット・ビノシュはこれまでの功績を合わせての功労賞的意味合いもあると思うが、彼らにしてもカンヌでの受賞は初めてだ。

 同様の傾向は11年前、北野武監督が映画『菊次郎の夏』で参加した第52回大会にもあった。その年は、スペインのペドロ・アルモドバル監督『オール・アバウト・マイ・マザー』、デヴィッド・リンチ監督『ストレイト・ストーリー』、そして『菊次郎の夏』の“三つ巴の戦い”と下馬評では言われていたのだが、審査委員長のデビッド・クローネンバーグ監督がパルム・ドールを授与したのは“伏兵”のダルデンヌ兄弟『ロゼッタ』。審査員特別賞と優秀男優&女優の三冠を、プレスの評価は低かったブリュノ・デュモンユマニテ』に与えて大ブーイングを与えた。しかし受賞で力を得た彼らの飛躍はここから始まり、今も意欲的に新作を発表している。今回の場合は特に、『アンクル・ブンミ~』がタイ初のパルム・ドールという栄冠を手にし、同国の映画産業に与える影響は計り知れないものがある。

 そういう意味で今年の審査結果は、世界の映画に精通し、映画祭で賞を与える意義を熟知した精鋭審査員たちによる納得の決断と言えそうだ。(取材・文:中山治美)

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