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「高慢と偏見」とLGBTQを見事に結びつけたロマコメ『ファイアー・アイランド』

厳選オンライン映画

賛否含めて論じる注目の7作品 連載最終回(全7回)

 日本未公開作や配信オリジナル映画、これまでに観る機会が少なかった貴重な作品など、オンラインで鑑賞できる映画の幅が広がっている。この記事では数多くのオンライン映画から、質の良いおススメ作品を独自の視点でセレクト。各ライターが賛否含めて論じる注目の7選として、毎日1作品のレビューをお送りする。

※ご注意 なおこのコンテンツは『ファイアー・アイランド』について、ネタバレが含まれる内容となります。ご注意ください。

ファイアー・アイランド
オリジナル映画『ファイアー・アイランド』はディズニープラスのスターで独占配信中 (C)2022 20th Century Studios.All rights reserved.

『ファイアー・アイランド』ディズニープラス
上映時間:105分
監督:アンドリュー・アン
出演:ジョエル・キム・ブースターボーウェン・ヤンほか

 『ファイアー・アイランド』は近年増えているLGBTQ+のロマンチックコメディーだ。ただしロマンチックという響きだけで本作を再生すると、あまりにもかしましくて面食らうかも知れない。主人公のノアは、親友ハウイーらゲイの仲間たちと実在のリゾート地「ファイアー・アイランド」に繰り出して、年に一度のバカンスを楽しむことが生きがい。島に到着すると、そこは同性愛者のパラダイス。「テンション下がったら死ぬ!」とばかりに、狂騒のパーティーとセックスのお相手探しに明け暮れている。

 このハイテンションな映画が18~19世紀の作家ジェーン・オースティンの代表作「高慢と偏見」を下敷きにしている……というのは前知識で知ってはいたが、享楽的でにぎやかなゲイたちとジェーン・オースティンの世界がどう結びつくのか、正直想像がつかなかった。ところが本作は驚くべきクレバーさで、2つの世界が遠いものではないのだと証明してくれるのだ。

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ファイアー・アイランド
オリジナル映画『ファイアー・アイランド』はディズニープラスのスターで独占配信中 (C)2022 20th Century Studios.All rights reserved.

 まず簡単に「高慢と偏見」の説明をしたい。女性には結婚しか幸せの選択肢がないと思われていた時代。ベネット家の5人姉妹の次女エリザベスが、資産家のダーシーに求愛されて拒絶するが、次第にダーシーの誠実さに気づいていくというお話で、「第一印象は最悪だった2人が引かれ合う」というロマコメのド定番の元祖といえる。ダーシー役をコリン・ファースが演じた1995年のドラマシリーズや、『プライドと偏見』の邦題で2005年に公開されたキーラ・ナイトレイ主演作は高く評価された。

 また現代OLの日常を描いて大ヒットした『ブリジット・ジョーンズの日記』(2001)で、主人公ブリジットと恋に落ちるコリン・ファースの役名がダーシーなのはあからさまなオマージュ。さらに『高慢と偏見とゾンビ』(2016)という、ほぼ同じ話なのにベネット家の5人姉妹がゾンビハンターでした! というホラーと悪魔合体させたアクション映画まである。みんな「高慢と偏見」が大好きすぎる。

ファイアー・アイランド
オリジナル映画『ファイアー・アイランド』はディズニープラスのスターで独占配信中 (C)2022 20th Century Studios.All rights reserved.

 『ファイアー・アイランド』の主演俳優で脚本も執筆したジョエル・キム・ブースターは、「高慢と偏見」が描く200年以上前の社会階層と、ゲイでありアメリカのアジア系でもある自分たちの現実につながりを見つけたという。「高慢と偏見」のエリザベスは決められた人生しか選べない社会の中では変わり者で、上流階級に対しても皮肉な視点を持っているが、やがて自分が抱えていた偏見も自分を縛っていたことに気づく。『ファイアー・アイランド』のジョエルも、ゲイコミュニティーの中でさえムリをして虚勢を張っていた自分自身と向き合い、セックス以上の恋愛を信じようと一歩前に足を踏み出すのだ。

 前述したように「高慢と偏見」はロマコメに多大な影響を与え、あまりにも定番化しているので、『ファイアー・アイランド』を観るために特に予習が必要なわけではない。前知識がなくとも、ジャンルの王道を現代のジェンダーの価値観に落とし込んだエンタメとして100%楽しめる。ただ「高慢と偏見」を知っていると、どのキャラクターが誰に相当し、多くのディテールがオリジナルを踏襲し、どこで大きく飛躍してみせているのかがわかって、アレンジの妙にほれぼれしてしまう。個人的には、本作の前でも後でも構わないので『プライドと偏見』だけでもご覧になることをおすすめしたい。

ファイアー・アイランド
オリジナル映画『ファイアー・アイランド』はディズニープラスのスターで独占配信中 (C)2022 20th Century Studios.All rights reserved.

 つつましやかさを求められた200年前の女性も、全力でハメを外して浮かれ騒ぐゲイたちも、普遍的な物語からはじき出されることはない。そして新たな視点で語り直すことで、古典は新たな魅力を放ち、その価値をさらに高めていく。天国にいるジェーン・オースティンの気持ちはわからないが、この快作を観ることができたら彼女も誇りに思うのではないだろうか。(文・村山章、編集協力・今祥枝)

オリジナル映画『ファイアー・アイランド』はディズニープラスのスターで独占配信中

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