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アニメーション監督・湯浅政明 単独インタビュー

第31回東京国際映画祭

湯浅政明

さくらももこワールド劇中歌シーンは必見

取材・文:永野寿彦

第31回東京国際映画祭で、特集「アニメーション監督 湯浅政明の世界」が上映される湯浅政明監督。海外の映画祭でグランプリに輝いた『夜明け告げるルーのうた』『夜は短し歩けよ乙女』をはじめ、アニメーター時代に演出を担当した「ちびまる子ちゃん」や「クレヨンしんちゃん」の短編まで、湯浅監督が手掛ける独創的な魅力に満ちた作品が一挙登場。世界からも注目される湯浅監督が、今回の特集への思い、アニメーションを監督することの魅力を語った。

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劇場監督作から珠玉の短編まで勢揃い

湯浅政明

Q:東京国際映画祭で「アニメーション監督 湯浅政明の世界」という特集で作品が上映されることについて、率直な感想から教えていただけますか?

本当に光栄なことだと思っています。こんな機会は滅多にあることじゃないですし、なかなか観られない作品も揃ったラインナップになっているので、ぜひ多くの人たちに観ていただけるとうれしいですね。すごくありがたいチャンスだと思っています。

Q:確かにアニメーター・湯浅政明から映画監督・湯浅政明まで、一挙に楽しめるラインナップですね。

本編を上映していただけるのはもちろんなんですが、劇場ではもうなかなか上映されることが少ない短編だったり、シリーズの中から僕が担当した作品だけをチョイスしてもらえたのですごくうれしいですね。こういう機会だからこそ観てもらえたらいいなあって網羅したので。僕の最近の作品しか知らない人たちにも、もともとスタッフとしてこういうことをやっていたんだよ、こんな人気のあるものもやっているんだよ、と(笑)。

さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌
(C)さくらももこ / (株)さくらプロダクション 日本アニメーション 1992

Q:特に、『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』からの劇中歌シーン2本、「1969年のドラッグレース」と「買い物ブギー」は必見だと思います。

なにしろDVDにもなっていないですからね。大きな画面で観てもらえるチャンスはなかなかないですし。こういう作品があるということを知ってもらって、DVD化してもらえたらいいなあって思いますね。ぜひ大人の度量で乗り越えて欲しい(笑)。

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アニメーター経験が活かされた監督業

湯浅政明

Q:アニメーターから監督を経験したことで変わったことはありますか?

やっぱり監督を経験すると変わりますよね。僕はわりと真面目なアニメーターだったと思うんですけど、基本的には監督の思うことに応えようとしながらも、ともすれば、はみ出してやろうとかというところもあって。そこがいろんな人が作画を担当するアニメーションの良いところだろうとは思うんですけど、実際に監督の立場になると、アニメーターとして求められているものがよりはっきりとわかるようになりましたね。たとえば、今は演出としてシリーズものに参加しても、「スペース☆ダンディ」ならば総監督の渡辺(信一郎)さんはこういう方向で行きたいんじゃないかなとか、「アドベンチャー・タイム」に参加させていただいた時も僕は「アドベンチャー・タイム」っぽくやりたいと思っていたんだけれど、他の回とは違う個性が欲しいと頼まれて、僕なりの「アドベンチャー・タイム」を作らせてもらったりとか。あくまでも僕の解釈ですけど。だからこそ僕も監督という立場になれば、アニメーターの個性は活かしたいと思っています。

Q:それはどういう形で?

うまいアニメーターはある程度演出もできるはずなんですよ。俳優さんみたいなもので、ちゃんと自分で芝居が考えられる。本来の流れとは違うことをやりたいという人がいたら、確かにちょっと違うけど、その人が楽しいならそれが出来るように周りを合わせてあげようと。もし無理だったらそこは修正すればいいんですから。

クレヨンしんちゃん
(C)臼井儀人/双葉社・シンエイ・テレビ朝日・ADK

Q:湯浅さんもそういう体験をしたんですか?

「クレヨンしんちゃん」シリーズでアニメーターをやっていた時、監督の本郷(みつる)さんが「好きにやっていいよ」って言ってくださって、やらせてもらっていましたね。「あとは僕が盛り上げてやるから大丈夫」って本郷さんは言ってましたけど(笑)。でも、たぶんその言葉は正しくて、ヒントというか、自分にないものをもらえれば作品は豊かになるし、そこに自分がなにかを加えて、ちゃんと自分の作品に合うように展開させればいいだけなので。アニメーターも自分のアイデアで何かが生まれていくのは楽しいだろうし、一緒に作品を作っている感が出るかもしれない。アニメーションの仕事って基本的にキツいので、楽しみながら作ってほしいなと思っています。シリーズだったら、一家をなすようなアニメーターの方だったら演出も任せちゃって、設定まで作ってもらうとかもありだし。その話数は自分の話数だって言えるような感じでやってもらえたらうれしいじゃないですか。

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みんなが望む作品に肉薄したい

DEVILMAN crybaby
「DEVILMAN crybaby」より - (C)Go Nagai-Devilman Crybaby Project

Q:監督する作品を選ぶ時はどうされているんですか?

基本的には「オレできるよ」ってなんでも言うんですよ(笑)。「DEVILMAN crybaby」の時も「デビルマン」は難しいなと思いつつ、「オレできるよ」と(笑)。そう言ってから考えるんです。そこからどうやったらできるかということを考えるのが楽しい。原作があるものは、原作を読んだことがある人たちはその時に感じて自分の中に残ったものを再現してほしいと思っているんですが、それは人それぞれ違うんです。だから全員に合わせることは無理で、そういう風に作ることは難しい。僕は、自分が「デビルマン」を読んだ時に衝撃を受けたり、面白いと感じたことをそのまま残しつつ、キャラクターそれぞれに関しては自分で理由をつけて合点がいくように揃えていくという感じで作りました。

夜明け告げるルーのうた
『夜明け告げるルーのうた』より - (C)2017 ルー製作委員会

Q:『夜明け告げるルーのうた』のようなオリジナル作品の場合は?

テーマとかストーリーの大体の骨組を作ってから、基本的にはみんなに意見を聞きながら、アイデアを出していきます。ルーの場合はもともと自分がやりたかった企画があって、それをちょっと変化させていく形で作っていきました。それでもかなり紆余曲折があったので……。次の作品はもっとシンプルな形で作っています。自分が主導権を握って根本の部分をしっかり決めてから枝葉を作っていくような流れにしたので、結構スムーズにいってますね。まだ発表はできませんけど(笑)。

マインド・ゲーム
『マインド・ゲーム』より - (C)2004 MIND GAME Project

Q:今後の湯浅作品がどういうものになっていくのかすごく楽しみです。

マインド・ゲーム』で初めて監督した時に、すっごく褒めてくれた人もいたけれどダメだっていう人もいて。一番ショックだったのは大好きな映画批評サイトでボロクソに言われたんですね。これはどういうことなんだろう。映画ってなんだろう。みんな映画に何を見ているんだろう。自分が見ているものとは違うのかなとそういうことを考えるきっかけになったんです。みんながどういう風に映画を観ているかにすごく興味がわきました。その中で、大多数に望まれるものにどれだけ肉薄できるかというのを一度突き詰めてみたい。そうすれば自分がやりたいものを届ける形が見えるもしれない、と。どうせやるなら、やりたいものを望まれる形で出すのが望ましいので。そのためにまずみんなと線を繋がないといけない。僕は『夜明け告げるルーのうた』に出てくるルーみたいな気持ちでいます。「好き好き仲良くしたい」って(笑)。だから今回の特集上映を観て、僕という存在をもっと知ってもらいたいですね。

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「アニメーション監督 湯浅政明の世界」上映スケジュール

アニメーション監督 湯浅政明の世界

『夜は短し歩けよ乙女』
10月26日(金) 20:15~
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN 6

『DEVILMAN crybaby』
10月26日(金) 23:20~
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN 6

『夜明け告げるルーのうた』
10月28日(日) 10:05~
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN 3

『マインド・ゲーム』
11月1日(木) 17:25~
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN 3

湯浅政明 自選短編集 1992-2014
11月1日(木) 20:30~
会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ SCREEN 3

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