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9.11の裏側描く「倒壊する巨塔」 アメリカの黒歴史に衝撃<シーズン1評>

厳選!ハマる海外ドラマ

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 米Huluのミニ・シリーズ「倒壊する巨塔 -アルカイダと「9.11」への道-」は、ピューリッツァー賞の一般ノンフィクション部門を受賞したローレンス・ライトの同名ノンフィクションのドラマ化。2001年に起きた9.11同時多発テロを題材にした映像作品は数多く、ドキュメンタリーも豊富。正直、なぜ今、この題材を描くのか、もう描き尽くされたんじゃないのかと思う人もいるかもしれないが、さにあらず。膨大な取材によって、アメリカ側とアルカイダ側の文化的背景なども丁寧に積み重ねていく原作からすると、圧倒的にアメリカ側の黒歴史にフォーカスした点に、今の時代にこそ改めて振り返るべき重要なテーマが浮き彫りになる秀作だ。

 本作がフィーチャーしているのは、FBIとライバル関係にあるCIAの不和と内紛である。ドラマは1998年、オサマ・ビンラディンとアルカイダの脅威がいや増す時代を背景に、2004年の同時多発テロ合同調査での証言の様子と実際のニュース映像を挟みながら、9.11に至る舞台裏を描いていく。これがもう、本当にひどい話なのだ。CIAは徹底して必要な情報をFBIに隠し、FBIからの重要なメールを50人以上が読んだにも関わらず無視し、旗色が悪くなるとFBIに隠していた書類を資料に紛れ込ませて素知らぬ顔。探したら地下の資料庫にありました的なやり口って、どこの国にもあるんだなあ。

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FBIジョン・P・オニール役は、テレビドラマ「ニュースルーム」や映画『オデッセイ』などのジェフ・ダニエルズ

 FBIの優秀な人材が不都合な真実に迫ろうとすると、CIAにいいポジションを用意するからこっちにこないかと取り込もうとする。もちろん、CIA内部には、そうした上層部に不審を抱き、正義をなそうとしていた職員がいる。一方でFBI側にも、CIAによく思われたいがために事なかれを決め込む人物もいる。今の日本なら忖度とでも言うのだろうが、忖度が奪った人命の数、人生を狂わせた人々のことを考えたとき、どうしようもない嫌悪感がこみ上げてくる。なんという苦々しさだろうか。当然のことながら、その背景には国民にひた隠しにしているホワイトハウスとサウジアラビアの密接な関係性があり、こと中東問題については骨抜きにされ、官僚化したCIA、さらにはFBIの上層部にも強大な圧力がかかっている。ドラマは、そのことも包み隠さず、はっきりと描いている。

 そもそも、ドラマは未曾有の悲劇で終わることはわかっているわけだから、毎回のように歯噛みしながら胃がしくしくして、エンタメとしてはなかなか辛い。FBIのジョン・P・オニール(ジェフ・ダニエルズ)が率いるチームやテロ対策担当大統領補佐官リチャード・クラーク(マイケル・スタールバーグ)ら、早くからビンラディンやアルカイダの脅威に注目していた数少ない人々が、これまでとは異なる形での脅威が目前に迫っていることを肌で感じ、米国内での大規模テロの予兆に気づき、いくつもの糸口をつかみながらも、そうした地道な捜査や努力が実ることは絶対にないのだから。

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『シェイプ・オブ・ウォーター』『君の名前で僕を呼んで』など賞レースに絡む話題作に出演すること多数の個性派マイケル・スタールバーグが、テロ対策担当大統領補佐官リチャード・クラークに

 企画、製作総指揮を手がけているのは、『マーシャル・ロー』(1998)の脚本家でもあるライト、『ラッカは静かに虐殺されている』(2017)の製作総指揮や『エンロン 巨大企業はいかにして崩壊したのか?』(2005)の監督を務めたアレックス・ギブニー、そして実話ベースの『フォックスキャッチャー』(2014)と『カポーティ』(2005)の脚本、脚色を手がけて2度のオスカー候補になったダン・ファターマン。ギブニーは『「闇」へ』(2007・日本劇場未公開)でアカデミー賞ドキュメンタリー長編賞を受賞している。

 骨太で通好みの作品を手がけてきた顔ぶれへの期待は裏切られることなく、ドラマチックな演出を避けた堅実な作風に、いぶし銀の俳優陣のアンサンブルは実に見ごたえのある仕上がり。誰が主役というわけでもなく、全員が地味にキャラ立ちしている感じは『スポットライト 世紀のスクープ』(2015)に通じるものがあるだろうか(中でも「ナイト・オブ・キリング 失われた記憶」のビル・キャンプの味わい深さよ!)。連続ドラマとして物足りなさを感じる人もいるだろうが、現実とはそうしたものではないのかとも。昨日や今日の失策の結果ではなく、驚くほど多くの理不尽なことがまかり通った末に、長い時間をかけて悲劇は着実にその時を迎えるのである。このドラマで描かれているように。

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実録映画『モリーズ・ゲーム』も公開中のビル・キャンプが、FBIのベテラン捜査官ロバート・チェズニーに

 ドキュメンタリーや実話ベースの映像化作品において才能を発揮する作り手の意図、メッセージ性は明確でブレがない。それは疑心暗鬼や相互不信、不和、内紛といった分断が招く、未曾有の悲劇が起こりうる可能性を、今一度考えるべきだという強い危機感にほかならない。

 終盤に、こんなくだりがある。2001年当時、ジョージ・W・ブッシュ大統領の国家安全保障問題担当大統領補佐官、国務長官だったコンドリーザ・ライスとCIA長官ジョージ・J・テネットが、2004年の同時多発テロ合同調査において実際に証言している映像だ。2人そろって、平然と知らぬ存ぜぬを貫き通す厚顔無恥さ。それまでに丹念に積み重ねられてきたエピソードの数々が、この2名の証言映像によって最大限に破壊力を発揮し、その衝撃に言葉を失う。もっとも、最近の日本の国会でも、こんな答弁はしょっちゅう耳にしている気がするが。実は本作は、冒頭で「実際の事件を基にしたフィクションである」ことを明文化している。多方面への配慮・予防線でもあるのだろうが、本作以上に「真実を伝える物語」であると思わせるドラマもそうはないのではないか。

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CIA「アレック支局」局長マーティン・シュミットに、映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』でロバート・F・ケネディを演じたピーター・サースガード

 なぜ9.11が起きたのかを、多方面から理解しようとうする努力、検証は、常に必要なことだろう。しかし、今伝えるべきはアメリカ政府にとって都合の良いヒーローの物語ではないという思いは、トランプの時代に突入して以降、ますます自分の中で強くなっている。奇しくも、先日のイスラエルに米大使館が移転した式典の裏側で起きた惨事を伝えるニュースで、テレビから“サウジアメリカ”という言葉が聞こえて来てぞっとした。ドラマの最終話では、ワールドトレードセンターが炎上する映像を見ながら、イエメンの兵士たちが「アメリカの外交の結果だ。聖地を占領すればこうなる」というシーンがある。9.11は始まりでもなければ終わりでもないのだ。アメリカの恥部を覚悟を持って描き切った本作の作り手たちが、このタイミングで本作を世に出したことの意義と勇気に改めて敬服する。これこそが今の時代に語るべき9.11の物語なのだと強く思う。

「倒壊する巨塔 -アルカイダと「9.11」への道-」(原題:The Looming Tower)全10話
94点
サスペンス ★★★★☆
社会派 ★★★★★
アクション ★★☆☆☆

視聴方法:
Amazon Prime Videoで独占配信中

今祥枝(いま・さちえ)映画・海外ドラマライター。4月号より「小説すばる」で海外ドラマのコラム「ピークTV最前線」を連載中。当サイトでは「名画プレイバック」を担当。作品のセレクトは5点満点で3点以上が目安にしています。Twitter @SachieIma

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