ADVERTISEMENT

禁断のテーマに挑んだ名作&問題作8選

今週のクローズアップ

RAW~少女のめざめ~
『RAW~少女のめざめ~』(2月2日公開)(C) 2016 Petit Film, Rouge International, FraKas Productions. ALL RIGHTS RESERVED.

 カンヌ国際映画祭で上映され世界的な注目を浴びた問題作『RAW~少女のめざめ~』。カニバリズムというタブーに挑みながらティーンの成長を捉えた青春映画に仕上げた本作しかり、過去を振り返ってみるとアカデミー賞受賞作『羊たちの沈黙』を筆頭に名作多数。ダークファンタジーの名手ティム・バートン、『アメリ』のフランス人監督ジャン=ピエール・ジュネ、イギリスの巨匠ピーター・グリーナウェイ……。果たして彼らは、この過激なテーマに挑み何を描こうとしたのか? 映画史に爪痕を残す問題作を振り返ってみた。(構成・文:編集部 石井百合子)

ADVERTISEMENT

変化

『RAW~少女のめざめ~』(2016)

 ヒロインは、両親と姉と同じ獣医科大学に入学した16歳の少女・ジュスティーヌ(ギャランス・マリリエ)。実は彼女、筋金入りのべジタリアンの家庭で育っており、肉は一切食べられないのだが、大学の寮で彼女を待ち受けていたのは全身に血を浴びせられ、うさぎの腎臓を強制的に食べさせられるという新入生を“歓迎”するショッキングな儀式(かといっていじめというニュアンスでもなく、新社会人の歓迎会のような体育会系のノリ)。以来、体中に湿疹ができ、悪夢にもうなされるというすさまじい拒否反応を経て、思わぬ変化が訪れる……。

RAW~少女のめざめ~

 姉のアレックス(エラ・ルンプフ)も同様のシゴキを受け、今やすっかり肉食に順応しているが、ジュスティーヌの場合はまるで抑圧されていた自我が爆発したかのように暴走していく。表現方法は過激ながら性の目覚めなど、多感な時期のコントロールできない変化は誰もが体験するもの。ジュスティーヌが湿疹をかきむしったり、アレックスがジュスティーヌのムダ毛を処理する際に起きた“事故”などグロテスクな描写もあるが、決して重苦しいムードではなく時には笑いを生むほどの絶妙なタッチだ。長編監督デビュー作にしてこの問題作を成功させたジュリア・デュクルノー(美人!)は、母が婦人科医で父が皮膚科医だった影響により、「人の死と老いが当たり前のものになり心気症(精神的な病)になった」と言い、自身の体験が色濃く投影されているようだ。ちなみに、6歳の時に偶然初めて観たホラー映画が『悪魔のいけにえ』(1974)だったが「全く怖いと思わなかった」という肝っ玉の持主。

『RAW~少女のめざめ~』作品情報>

ADVERTISEMENT

復讐

コックと泥棒、その妻と愛人』(1989)
タイタス』(1999)

コックと泥棒、その妻と愛人
『コックと泥棒、その妻と愛人』(1989)(C)Miramax Films / Photofest / ゲッティ イメージズ

 監督はイギリスの巨匠ピーター・グリーナウェイ、音楽は同監督と多くタッグを組んでいるほか『ピアノ・レッスン』(1993)、『ひかりのまち』(1999)などで知られるマイケル・ナイマン、衣装はジャン=ポール・ゴルチエと豪華布陣がそろった愛憎劇『コックと泥棒、その妻と愛人』。一度観たら忘れられない濃密な物語だが、これがわずか10日間の出来事というから驚く。腕利きのシェフ、リチャード(リシェール・ボーランジェ)が経営する高級フランス料理店を舞台に、店に通う残忍な泥棒アルバート(マイケル・ガンボン)、その妻ジョージーナ(ヘレン・ミレン)、彼女の愛人で学者のマイケル(アラン・ハワード)の顛末を描く。アルバートから日常的に暴力を受けていたジョージーナは、知的で穏やかなマイケルと一目で恋に落ち、レストランの厨房で情事を重ねるように。しかし、幸せも長くは続かず妻の裏切りを知ったアルバートは残忍な方法でマイケルを殺害。愛する人を失ったジョージーナはリチャードに協力を仰ぎ、壮絶な方法で復讐に出る。

 約28年経ても古びないゴルチエの、体にフィットしたセクシーでユニークな衣装、そしてベン・ヴァン・オズヤン・ロールフス(『オルランド』など)による美術が圧巻。レストラン内、トイレ、厨房と舞台や照明が変わるたびに衣装の色が赤→白→緑→紫など変わっていく凝りよう。特に、ラスト10分のヘレン・ミレンの衣装は裾が驚くほど長く、横で人が裾を持って立っているという奇抜なもの。『ハリー・ポッター』シリーズのアルバス・ダンブルドア役でおなじみのマイケル・ガンボン、『クィーン』のオスカー女優ヘレン・ミレン、『ディーバ』などのリシェール・ボーランジェら芸達者な名優たちのアンサンブルも贅沢で、アート映画としても堪能できるがラスト10分を芸術か、はたまた悪趣味と捉えるかは分かれるだろう。アルバートの手下を演じた、若かりし日のティム・ロスの美貌(美肌)も目を引く。

タイタス
『タイタス』(1999)(C)Fox Searchlight / Photofest / ゲッティ イメージズ

 『コックと泥棒、その妻と愛人』と同じくラスト数分で“死よりも恐ろしい制裁”を描いた『タイタス』は、ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「タイタス・アンドロニカス」を舞台出身の女性監督ジュリー・テイモアが斬新にアレンジ、映画化した愛憎劇。ローマの武将タイタス(アンソニー・ホプキンス)と、人質にされたゴート族の女王タモラ(ジェシカ・ラング)と息子たち(ジョナサン・リス=マイヤーズマシュー・リス)の血で血を洗う争いが描かれる。悲劇の始まりは、タイタスが暴君サターナイナス(アラン・カミング)を皇帝に選んだこと。彼がタモラを妃にしたことから、タイタスに長男を殺され怒りに燃えていたタモラは狡猾な愛人アーロン(ハリー・レニックス)の助けを得てタイタスに復讐を始める……。その計画というのが恐ろしいもので、タモラの息子たちにタイタスの愛娘を襲わせた上に舌と両腕を切り落とし、罠にはめて皇帝に2人の息子たちを処刑させた揚げ句、タイタスは自ら右手を切り落とすはめに。すべてを失ったタイタスが黙っているはずがなく、ラストでの「倍倍返し」と言わんばかりのタモラへの“おもてなし”には言葉を失うこと必至。

『タイタス』作品情報>

ADVERTISEMENT

世相

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)
デリカテッセン』(1991)

スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』(2007)(C)DreamWorks LLC and Warner Bros. Entertainment / Photofest / ゲッティ イメージズ

 ブロードウェイの巨匠スティーヴン・ソンドハイムのトニー賞受賞ミュージカルを映画化。ジョニー・デップがティム・バートンと6度目のタッグを組んだ『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』。舞台は19世紀のイギリス。「ロンドン一まずいパイ店」で恐ろしい凶行が繰り広げられることになったきっかけは、不況で肉を得られず店の経営に苦しんでいたミセス・ラベット(ヘレナ・ボナム=カーター)と、妻と娘を奪って自分を投獄した判事ターピン(アラン・リックマン)への復讐に燃える理髪師ベンジャミン・バーカー(ジョニー・デップ)が出会ってしまったこと。バーカーは意図しない殺人をきっかけによそ者、身寄りのない客を次々に手にかけ、ラベットがその死体をミートパイに加工し、店は大繁盛していく……。ゾッとする話だが、善人が狂気の殺人犯に変貌するさまはあまりにも哀しい。一方で、2人が通行人を眺めながら誰の肉がおいしいか話し合うシーンで「役者は? 味わい深い」(ラベット)「でも大抵少しくどい」(トッド)、「政治家はドロドロ。手が汚れやすい」(ラベット)「パンにのせろ。いつ崩れるかわからない」(トッド)など、ブラックユーモアに満ちた会話&ミュージカルシーンが痛快。ジョニー、ヘレナ、アランら芸達者なスターたちの美声は圧巻だ。

デリカテッセン
『デリカテッセン』(1991)(C)Miramax / Photofest / ゲッティ イメージズ

 同じく世知辛い世のサバイバルを描くジャン=ピエール・ジュネ&マルク・キャロによるブラック・コメディー『デリカテッセン』は、核戦争後の荒廃したパリが舞台。食糧危機に瀕しており、地上で暮らす肉食派、地下で暮らす菜食派に分かれている。地上で精肉店とアパートを営む主人(ジャン=クロード・ドレフュス)は、店を訪れる流れ者を殺してはその肉を売る独裁者で、アパートの雑用係として働き始めた元芸人のルイゾン(ドミニク・ピノン)をも狙っていたが、主人の娘ジュリー(マリー=ロール・ドゥーニャ)が恋したことから菜食派の地底人をも巻き込んだ騒動が勃発する。ジュネ作品の常連俳優である個性派ピノン演じるルイゾンは、ピュアでどこかトボけていて、殺伐とした世界に一縷の希望をもたらす存在。のこぎりの歯を楽器にジュリーとセッションするなど癒やしの名シーン多し。また、複雑な装置を作って自殺未遂を繰り返す女性、水浸しの部屋に籠もりかたつむりを主食に暮らす老人などアパートの住人たちのキャラもユニークで、彼らの言動が後半の伏線になっているところも秀逸。

『スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師』作品情報>

ADVERTISEMENT

ガーゴイル』(2001)

ガーゴイル
『ガーゴイル』(2001)(C)Lot 47 Films / Photofest/ ゲッティ イメージズ

 タイトルのガーゴイルとは「怪物をかたどった彫刻」を意味する言葉だが(英題はTrouble Every Day)、主演にヴィンセント・ギャロ、共演にベアトリス・ダル(血なまぐさい役が多い)とどこか怪物的な風貌のスターをキャスティングしているところからして、“イヤ”な予感がプンプン。2人は本作で、性的欲望が頂点に達すると相手を噛み殺したい衝動にかられる病を抱えた男女を怪演している。冒頭、科学者シェーン(ギャロ)と新妻ジューン(トリシア・ヴェッセイ)が新婚旅行でパリに向かう機内のシーンでは、シェーンは妻が血まみれで死んでいる姿を妄想しており、早くも危険信号が見える。ホテルに到着すると妻とキスを交わしてじゃれ合う一方、荷物を運ぶ客室係のクリステル(フロランス・ロワレ=カイユ)のうなじを凝視。愛情深いにもかかわらずなぜか肉体関係を拒絶するシェーンに、ジューンは不安を抱えている。同時に、街で手あたり次第男を誘っては関係を持ち凶行に及ぶコレ(ダル)の血まみれの日常が映し出され、シェーンの旅行の目的がこの奇病の治療薬を研究していたコレの夫レオ(アレックス・デスカス)を捜すためだったことがわかっていく。

 シェーンがホテルで眠りにつくとともに映し出される映像によると、かつてシェーンはレオ、コレと同じ薬草研究のチームにおり、利益に目がくらんで研究を急ぎ人体実験を行った結果、シェーンのみならずコレも奇病を抱えることになった模様(これが事実なのか夢なのかはわからない)。シェーンよりも症状の重いコレがたどる末路、愛する妻を守るためにシェーンがラストでとる行動は衝撃的。監督は、『パリ、18区、夜。』(1994)などの女性監督クレール・ドニ

『ガーゴイル』作品情報>

ADVERTISEMENT

呪縛

』(2013)

肉
『肉』DVD(税抜3,800円)はトランスフォーマーより発売中(C)2013 We Are What We Are, LLC

 ホルヘ・ミッチェル・グラウ監督のメキシコ製ホラー『猟奇的な家族』(2010)を、舞台をアメリカに移してリメイク。カンヌ国際映画祭やサンダンス映画祭で話題になった家族ドラマ。ニューヨーク州北部の田舎町で暮らすパーカー家は、両親と美しい姉妹、幼い弟の5人で暮らす平凡な家族だったが、嵐の到来とともに母親エマが死亡。姉妹は父親の命により亡き母親に代わって、一家代々受け継がれてきた「子羊の日」と名付けられた秘密の儀式を行うことになる……。ドクター・バロー(マイケル・パークス)の娘をはじめ、20年で3人が失踪。今も長女アイリス(アンバー・チルダーズ)が通う学校の少女が行方不明になっている。

 全ての発端が嵐によるもの。エマの突然の死のみならず、かつてエマが埋めたであろう遺体の骨の一部を、偶然バローが発見。頼りない警察をよそに、失踪した娘との関連を疑い、地道な調査を重ねることで核心に近づいていく過程がスリリング。また、登場人物の中ではパーカー家の次女ローズ(ジュリア・ガーナー)がキーパーソンで、父親の呪縛から逃れられず従順に儀式を執り行おうとするアイリスと違って儀式に抵抗。アイリスがボーイフレンドの新人保安官と親密になるのを見て姉に捨てられるのではないかという不安を抱えていたり、多感な少女の葛藤が生々しく描かれている。『RAW』と同様、青春映画としても見ごたえアリだが、ラストは目を覆うグロテスクさなので、スプラッタものが苦手な人は注意を。

『肉』作品情報>

ADVERTISEMENT

狂気

『羊たちの沈黙』(1990)

羊たちの沈黙
『羊たちの沈黙』(1990)(C)Orion / Photofest / ゲッティイメージズ

 「天才と奇人は紙一重」とはよく言ったものだが、主人公の天才精神科医・レクター博士(アンソニー・ホプキンス)が人に受け入れられがたい嗜好を持ちながら、ここまでポピュラーになっているのが、まず不思議だ。しかも、患者を9人殺した残忍な犯罪者だ。危険人物であり間違っても感情移入できる余地はないが、FBIの聡明で美しい訓練生クラリス(ジョディ・フォスター)の秘密を知った彼の反応、クラリスとの間に生じる奇妙な絆が興味深い。連続猟奇殺人事件の犯人のプロファイリングを依頼したクラリスが、交換条件としてレクターに自身の過去を告白する複数の場面はいずれもレクターが何をしでかすかわからない緊迫感に満ちているが、次第にクラリスへの愛にも似た感情が垣間見える。中でも、クラリスが幼少期に里親に見放されるきっかけとなった、羊小屋での出来事を聞いた際のレクターの表情は印象的。終盤、とっさに資料を渡そうとするレクターとクラリスの一瞬の“触れ合い”は、映画史に残る名場面だ。

 アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞など5部門で受賞し、続編の『ハンニバル』(2001)、前日譚の『レッド・ドラゴン』(2002)&『ハンニバル・ライジング』(2007)、そしてマッツ・ミケルセン主演の海外ドラマ版(2013~2015)まで製作されるほど人気を得たこの“ハンニバル(人食い)・レクター”。「倫理観」が完全に欠落しているにもかかわらず人を魅了する、映像作品だからこそ成立する稀有なキャラクターで、映画版で3作にわたって優雅で知的な魅力を携えてレクターを演じた名優アンソニー・ホプキンスの功績は大きい。

『羊たちの沈黙』作品情報>

  • mixiチェック
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • ツイート
  • シェア
ADVERTISEMENT