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アンジー監督作『アンブロークン(原題)』で描かれる日本人とは?評価と製作の背景に迫る!

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 世界の映画産業の中心・アメリカの最新映画情報を現地在住ライターが紹介する「最新!全米HOTムービー」。今回は、その題材から日本でも話題になっているアンジェリーナ・ジョリー監督、製作の映画『アンブロークン(原題) / Unbroken』をご紹介。製作の背景、一体どんな内容なのか、日本人が観た感想、海外の評価にまで迫ります。(取材・文:吉川優子、細谷佳史)

製作までの背景

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映画『アンブロークン(原題)』
映画『アンブロークン(原題)』のジャック・オコンネル、アンジェリーナ・ジョリー監督、雅 -MIYAVI- - Brendon Thorne / Getty Images

 本作は、オリンピック選手として活躍したアメリカ人ルイス・ザンペリーニが、第2次世界大中に日本軍の捕虜となるが、サバイブするという人間ドラマ。昨年クリスマスに全米公開されるとオープニングの週末だけで3,062万1,445ドル(約36億7,457万3,400円)の興行収入を上げ、1月25日までに全世界で興収1億4,053万6,905ドル(約168億6,442万8,600円)を超えるヒットとなっている。先日発表されたアカデミー賞のノミネーションでは、これが12回目の候補となったロジャー・ディーキンスの撮影賞をはじめ、音響編集賞、音響調整賞の3部門で候補となっている。(1ドル120円計算)

 映画の基になっているのは2010年に出版されたローラ・ヒレンブランドのノンフィクション「Unbroken: A World War II Story of Survival, Resilience, and Redemption」。ニューヨーク・タイムズのベストセラー・リストに4年以上載り続け(トップに15週間)、全米で400万部を売り上げている人気の本で、タイム誌の2010年ベスト・ノンフィクションや、ロサンゼルス・タイムズのブック・オブ・ザ・イヤー・アワード・フォー・バイオグラフィーに選ばれるなど、高い評価を得ている。

ルイス・ザンペリーニ
ルイス・ザンペリーニ - Amanda Edwards / WireImage / Getty Images

 実は、ルイス自身が書いた本を基にした映画を作ろうという企画は57年も前からあり、ユニバーサル・ピクチャーズがトニー・カーティス主演で作る予定だったそうだ。その後も、何度か企画が持ち上がっては立ち消えになっていたが、ヒレンブランドの本がベストセラーになったことがはずみとなり、今作の実現に結び付いた。

 脚本は、まず『恋人たちのパレード』リチャード・ラグラヴェネーズが手掛け、その後『グラディエーター』ウィリアム・ニコルソンが担当。アンジーは、ニコルソンの脚本を読んで、ルイスのストーリーにすぐさま惹(ひ)かれたそうだ。そして、原作を読んだ後、想像を絶する苦難に遭っても決して諦めないルイスのポジティブな生き方に深く感動し、自分で監督したいと強く希望、監督の座を手に入れるために闘ったという。

コーエン兄弟
脚本のコーエン兄弟 - John Lamparski / WireImage / Getty Images

 その後、アンジーは、長年一緒に仕事をしてみたいと思っていたジョエル&イーサン・コーエン兄弟に脚本を依頼、ルイスの長い人生を描いた原作のどの部分を映画で描くかを、一緒に決めていったそうだ。

 運命のいたずらというか、ルイスが実はアンジーの家のすぐそばに住んでいるご近所さんだったとわかったのは興味深い。彼女が自宅の屋上に立つと、ルイスは居間から彼女を見ることができたらしい。ルイスに対して最高の尊敬の念を持つアンジーは、キャスティングも含め、全て彼の了承を得て映画作りを進めたそうで、昨年7月、ルイスが97歳で亡くなる前、ベッドの上でラフカットを見てもらえたという。

映画の内容(ネタバレあり)

映画『アンブロークン(原題)』
気になる内容は? - Adam Berry / Getty Images

 映画は、第2次世界大戦中、ルイス・ザンペリーニが爆撃手を務めるB-24が、南太平洋上で零戦と戦う迫力満点の戦闘シーンで始まる。そして、彼がカリフォルニア州トーランスに住んでいた子供の頃のフラッシュバックにつながる。ルイスは、いつもトラブルに巻き込まれている不良少年だったが、弟の可能性を信じる兄に励まされて陸上選手として訓練をするようになり、1936年のベルリンオリンピックに参加、5,000メール走で8位になり、時の人となる。その次に予定されていた東京オリンピックでメダルを取るのが彼の夢だったが、第2次世界大戦が勃発し、陸軍航空隊に入隊する。

 冒頭の戦闘では、なんとか無事に基地に戻れたが、ルイスはその後ハワイに転属、行方不明の味方機を捜すために出動するが、飛行機が故障して海に墜落。いかだに乗って、飢えと渇きに苦しみ、サメに脅かされながら47日間も漂流し、最終的に日本海軍に捕まる。

 東京の大森捕虜収容所に入れられたルイは、「ザ・バード」というあだ名を持つサディスティックな軍人、渡邊睦裕にすぐに目を付けられ、徹底的に虐待される。ある日、東京のラジオ局に行って、家族に無事でいることを放送で伝えるように言われたルイスは、その命令通りにするが、その後で、プロパガンダの内容のことを話せと言われ、拒否する。そのため、収容所に戻って来たルイスは、渡邊の命令で、200人の仲間の捕虜たち一人一人に殴られることになる。

 渡邊が別の収容所に転任となり、喜んだのもつかの間、ルイスたちは直江津にある捕虜収容所に移動。そこにはなんと渡邊が待ち受けていた。再び、ひどい仕打ちが続くが、ある時、渡邊はルイスに重い鉄の梁(はり)を頭上に掲げるように命令し、下に置いたら撃つと脅かす。痩せ衰えた体で、なんとかその梁(はり)を持ち上げ長時間耐えるルイスを、仲間の捕虜たちは祈るように見守っていた。

 ある日、海で体を洗うように言われた捕虜たちは、ついに処刑される日が来たと思うが、連合軍の飛行機が飛来、ようやく戦争が終結したことを知る。

 その後、アメリカに戻ったルイスは、家族と再会。エンドクレジットには、1998年の長野オリンピックで、聖火ランナーとして満面の笑みで走るルイスの映像や、彼を収容所で苦しめた兵隊たちと会って、彼らを許し、渡邊にも会おうとしたが、渡邊は面会を拒否した、という文章が流れる。

雅 -MIYAVI-ら演じた俳優たち

ジャック・オコンネル
ルイス役のジャック・オコンネル - Larry Busacca / Getty Images

 ルイスを演じたジャック・オコンネルは24歳のイギリス人俳優で、肉体的にも精神的にも大変な役柄を感情豊かに見事に演じており、ナショナル・ボード・オブ・レビューのベスト・ブレイクスルー・パフォーマンス賞やシカゴ・フィルム・クリティックス・アソシエーション・アワードのモースト・プロミシング・パフォーマー賞等を受賞している。

 渡邊(“ザ・バード”)を典型的な悪役ではなく、もっと多面性のあるキャラクターにしたいと思っていたアンジーは、役とは反対に「いい人」をキャスティングしようと考えた。また、役者ではなく、ロックスターをキャスティングしてはどうだろうかというアイデアを持っていた。

雅 -MIYAVI-
渡邊(“ザ・バード”)役の雅 -MIYAVI- - Jason LaVeris / FilmMagic / Getty Images

 そして白羽の矢が立ったのが日本のロックスター、雅 -MIYAVI-だ。彼自身は、日本人として、この役を引き受けるべきかどうか迷ったそうだが、アンジーがこの映画で伝えたいメッセージが重要なことだとわかり、受けることにした。「アンジーと話して、彼女は『許し』についての映画、違う文化を理解することに貢献できるような、対立している国々や文化の橋渡しとなるものを作ろうとしていることがわかったんです」と語っている。

雅 -MIYAVI-
ミュージシャンの雅 -MIYAVI- - Chiaki Nozu / WireImage / Getty Images

 これがハリウッドデビュー作とは思えない存在感で、ルイスをいじめ抜くという難しい役どころに挑んだ雅 -MIYAVI-はとても高く評価されており、ローリング・ストーン誌のピーター・トラバースは「日本のロックスター、雅 -MIYAVI-は、初めての(ハリウッド)映画の役柄を、魅力的な素晴らしい才能で演じ、ザ・バードの肉体的なエレガントさと、非人間的な虐待の野蛮さを、著しく対照的なものとして見せている」と語り、ハリウッド・リポーター誌のトッド・マッカーシーも「非常に恐ろしい“ザ・バード”という人目を引く役は、日本のシンガー、雅 -MIYAVI-によってカリスマ的に演じられている。(中略)(映画の中で)ほとんど英語で話すこの若い役者は、この邪悪な役をやるのにとても役立つ美しさと、タイミングのいいセンスを持っている」と絶賛。

 また、映画サイトIndiewireのピーター・ネートは、アカデミー賞助演男優賞候補予想の10番目に雅 -MIYAVI-を選んでいた。他にも、雅 -MIYAVI-の演技が素晴らしかったと書いている批評家は多く、今後アメリカにおいての活躍が期待できそうだ。

映画の評価

 さて、映画そのものの評価だが、大手映画批評サイトRotten Tomatoesによると、189人の批評家のトマトメーター(好意的な批評のパーセンテージ)は50%と賛否が分かれている(ご興味のある方は、最後にある批評をご参照ください)。同じくRotten Tomatoesにある一般観客4万人の意見によると、5点満点中3.5点以上をつけた人は72%で、気に入っている観客が多い。

 日本人として、今作を観るのはつらいだろうと思っていたが、実際観てみると、ルイスをはじめ捕虜たちをいじめるのは、日本軍というよりは渡邊一人にほぼ限定されており、日本人はみんな残虐だというふうには描かれていない。渡邊がルイスに「俺を見ろ」と言い、彼が見ると木刀で殴り、「俺を見るな」と言っては殴り、というシーンや、捕虜200人にルイスの顔を順番に殴らせるシーンなど、もちろん観ていてとても痛々しいが、レーティングがPG-13ということもあってか、残酷度は想像していたほど極端なものではなかった。ハリウッド映画には珍しく、東京空襲によって多くの市民が犠牲になった様子も登場し、戦争の悲惨さを逃れることは誰にもできないことが描かれている。

アンジェリーナ・ジョリー
本作を手掛けたアンジェリーナ・ジョリー監督

 映画を見終わって感じるのは、何よりも、どんな逆境にも屈せず、決して諦めることなく頑張り続けたルイスの忍耐力と、最終的に、これだけひどい目に遭わせた元日本兵たちを許せる気持ちになった彼のポジティブな生き方で、国籍を超えてインスパイアされずにはいられない人間ドラマとなっている。

 『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』『戦場にかける橋』ですでに見たようなもので新鮮さがないとか、ルイスのアメリカ帰国後の人生が描かれていないと言って批判する向きもあるが、ルイスの子供の頃やオリンピック、戦闘シーン、太平洋上の漂流、捕虜収容所と、全く設定の違うシーンが次々登場するこれだけの大作に、監督2作目で挑んだアンジーの情熱と力量には感心させられる。役者を長年やっているだけあって、前作『最愛の大地』に続き、それぞれの役者から説得力あふれる演技を引き出すのがとてもうまいのもさすがだ。常に人間の深い部分を真正面から描こうとするアンジーが、ハリウッドの数少ない女性監督として、今後大きく期待されるようになるのは間違いなさそうだ。

批評家のレビュー

 「これを『絶対に観ないといけないリスト』のトップに置くべきだ。(中略)アンジェリーナ・ジョリーは、 ひどい仕事をする人々であふれている男性優位の分野において、第一級の映画監督たちのトップランクに上り詰めた。(中略)2014年度の最も優れた映画の一つだ」(ニューヨーク・オブザーバー紙/レックス・リード)

 「苦痛、苦痛、苦痛にささげられた長く退屈で、冗長で不必要なエピック。(中略)大きな見せ場では、ジョリーは有能以上だが、映画は派生的で、忍耐力が人を偉大にするという考え以外にはアイデアがないように感じられる」(ニューヨーカー誌/デビッド・デンビー)

 「アンジェリーナ・ジョリーのこのパッション・プロジェクトの全てのフレームは、ルイス・ザンペリーニと彼の戦場での勇気に対する変わることのない愛情で輝いている。ザンペリーニは、(2014年)7月に97歳で肺炎で亡くなったが、亡くなる前に、彼女のラップトップコンピューターで、映画のラフカットを見てもらうことができた。(中略)『アンブロークン(原題)』は、その残虐性さえも、美しく作り上げられている。戦争の終末のシークエンスで、ルイスと他の捕虜たちが、まとめて殺されるだろうと思いながら川に連れて行かれるところは、いつまでも心に残る。ジョリーの陣営には、カメラの詩人であるロジャー・ディーキンスをはじめとして、多くの熟練した職人がいるが、『アンブロークン(原題)』に高く上昇するスピリットを与えているのは、彼女のビジョンだ。ルイスの忍耐力をたたえることにおいて、彼女は素晴らしい仕事をした」(ローリング・ストーン誌/ピーター・トラバース)

 「忍耐力についての話である『アンブロークン(原題)』を観るには、忍耐力が必要だ。ストーリーの悲惨さや、生来のサスペンスの欠如を考えると、ある程度それは避けられないことかもしれない。タイトルは『ブロークン』ではないから、どういう結末になるかについてほぼ疑いはない。でも、この長く、進むにつれてどんどん活気がなくなっていくローラ・ヒレンブランドの本の映画版は、並外れたヒロイズムを示したあるアメリカ人の人生を祝福しているわけだから、間違いなく残念だ」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙/ジョー・モーゲンスターン)

【今月のHOTライター】

吉川優子
俳優や監督の取材、ドキュメンタリー番組や長編映画の製作など、幅広く映画に関する仕事を手掛ける。最近の作品は「ハリウッド白熱教室」など。

細谷佳史(フィルムメーカー)
プロデュース作にジョー・ダンテらと組んだ『デス・ルーム』など。『悪の教典 -序章-』『宇宙兄弟』ではUS(アメリカ側)プロデューサーを務める。

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