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『ONE PIECE FILM RED』はなぜ社会現象となったのか?爆発的ヒットの要因

2022年を代表する1本となった『ONE PIECE FILM RED』
2022年を代表する1本となった『ONE PIECE FILM RED』 - (C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 8月6日の公開以降、興行収入187億円(12月25日現在・興行通信社調べ)を突破する爆発的ヒットを記録中の映画『ONE PIECE FILM RED』。尾田栄一郎の国民的漫画を原作とする劇場版シリーズ15作目の本作は、シリーズ最高興収記録を遥かに上回っただけでなく、東映の最高興収記録も塗り替えるなど、2022年の日本公開映画で最大のヒット作となった。劇中キャラクター・ウタ(ボイスキャスト:名塚佳織、歌唱キャスト:Ado)による主題歌&劇中歌も国内外の音楽チャートを席巻するなど、社会現象と言っても過言ではない盛り上がりを見せる本作のヒットの要因に迫る。(文・構成/天本伸一郎)

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 物語は、世界中で愛される歌姫・ウタが、初めて公の前に姿を現すライブシーンからスタートする。会場となる音楽の島・エレジアには、ルフィ率いる麦わらの一味、大物海賊、海軍が集結。全世界が見守る中、ウタのライブが始まるが、そこで彼女が四皇・赤髪のシャンクスの娘という衝撃の事実が明らかになる。

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(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 前作『劇場版『ONE PIECE STAMPEDE』』(興収55億5,000万円)から3年ぶりの劇場版となった『ONE PIECE FILM RED』は、原作者の尾田が総合プロデューサーを務めた。まずは劇場版シリーズの歴史を簡単におさらいすると、2000年に劇場版シリーズ第1作『ONE PIECE ワンピース』が公開され、興行収入は21億6,000万円を記録。翌年公開の第2作『ONE PIECE ワンピース ねじまき島の冒険』は興収30億円の大ヒットを記録するも、以降は少しずつ数字を落とし、第9作『ONE PIECE ワンピース THE MOVIE エピソード オブ チョッパー プラス 冬に咲く、奇跡の桜』は興収9億2,000万円となっていた(第1~3作は併映作品あり)。

 しかし、尾田が自ら製作総指揮を務めた第10作『ONE PIECE FILM ワンピースフィルム STRONG WORLD』(2009)で、当時のシリーズ最高記録を大きく塗り替える興収48億円を記録。その後、12作目『ONE PIECE FILM Z』(2012)は当時のシリーズ記録を更新する興収68億7,000万円、13作目『ONE PIECE FILM GOLD』(2016)が興収51億8,000万円と立て続けに大ヒットした。

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(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 漫画原作のアニメが劇場版を公開することは珍しくないが、初期の『映画ドラえもん』シリーズや劇場版『名探偵コナン』シリーズを除くと、原作者は一部のデザインに関わる程度で、ストーリーはアニメスタッフによるオリジナル作品が多かった。しかし、『ONE PIECE FILM ワンピースフィルム STRONG WORLD』に尾田が参加して以降、漫画原作の劇場版アニメがオリジナルエピソードを描く場合、原作者がその制作に深く関わった作品かどうかは、原作ファンを映画館に呼び込む上で重要視される傾向が顕著になった。以前は原作の設定を崩さない範囲でオリジナルの物語や番外編的な話を描いたものも多かったが、原作の公式設定にも関わる物語が増えると、原作ファンも劇場版を無視できない状況となった。

 『ONE PIECE FILM RED』のヒットの要因には、尾田が制作に深く関わり、魅力的な作品に仕上げたことはもちろん、特筆すべきポイントの一つとして、公開時期が原作漫画の最終章突入と重なり、盛り上がりを見せたことも大きいだろう。連載元の「週刊少年ジャンプ」では、最終章突入前に準備期間として30号から1か月間(4号分)の休載。同誌34号(7月25日発売)より最終章が始まった。休載期間の飢餓感と最終章開始の盛り上がりは、映画への期待にも拍車をかけたと想像できる。

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(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 そして、過去作と最も異なるのは、音楽映画としての魅力があること。これまでも主題歌には大物アーティストが起用されているが、音楽に焦点をあてた物語は今回が初めて。全く新しい『ONE PIECE』映画として、劇中楽曲が効果的に活かされた上で、曲自体にも力があったことは大きな要因といえるだろう。

 本作に登場するウタの劇中曲は、主題歌を含めて7曲。中田ヤスタカMrs. GREEN APPLEVaundyFAKE TYPE.澤野弘之折坂悠太秦基博といった人気アーティストが楽曲提供しており、すべてAdoが歌う。全曲が国内の各音楽チャートにランクインし、特に主題歌「新時代」は、Apple Musicのグローバルチャートで、日本の楽曲として初の全世界1位に輝く快挙を達成。8月31日時点でストリーミング累計再生回数は1億回を突破し、今月19日にはMVがYouTubeで1億回再生を突破するなど、今年の音楽シーンを席巻した。また、同曲のダンス動画がTikTokで流行したり、ウタが登場するYouTubeのオリジナルコンテンツ配信や、“シャンクスの娘”が「#Twitterトレンド大賞 2022」アニメ部門のトレンドワードとしてピックアップされるなど、SNS展開も含め、過去作にはなかった広がりを見せた。

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 人気アーティスト制作の楽曲としても注目度が高かったことに加え、楽曲自体のクオリティーも高かったことから、公開前に先行配信された「新時代」「私は最強」「逆光」の大ヒットは、映画のスタートダッシュを後押ししたはず。映画と楽曲が深く結びついていることで、楽曲のヒットが映画の宣伝にも大きく貢献し、物語に沿って制作された楽曲が劇中で効果的に使われたことで、楽曲自体がさらにヒットするというメディアミックスの相乗効果が生まれたのだろう。『君の名は。』『竜とそばかすの姫』などでも、物語と音楽が密接に結びつくことで、映画も音楽もヒットするという現象が見られた。音楽番組で楽曲自体や作品が取り上げられること、楽曲アルバムのCMなども、プロモーションになったはずだ。その他、「モンスターストライク」「パズル&ドラゴンズ」など6つのアプリゲームが映画とコラボしたことで、各ゲームのCM時に映画の告知がされるなど、映画単体のパブリシティー以外でも、必然的に露出の機会が多かったと思われる。

(C) 尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

 他にも、ヒットの背景として、集英社「少年ジャンプ+」「ゼブラック」にて原作コミックス1~92巻を期間限定で無料公開したことも、新規読者や途中で離脱していた読者が流入しやすい状況があった(映画の前日譚を描いたテレビアニメシリーズの中の連続エピソードも、YouTubeで無料公開されている)。さらに、尾田が「やってみたかった応援上映にうってつけの映画ができた」という主旨のコメントを公式サイトで発表しているように、体験型エンタメに関心度が高い現代にもピッタリなライブ感満載の作品であること、『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』『劇場版 呪術廻戦 0』などの大ヒット作品に続く劇場版アニメへの関心度の高まりや市場の拡大なども背景として考えられる。

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 これら様々な要因が複合的に重なったことで、音楽ファンや若年層を含むシリーズ未見の新規層、近年離れていた元ファンなども取り込むことに成功し、幅広い観客層を獲得したことが推測される。劇場公開から5か月近く経過するが、魅力的な入場者プレゼントや、尾田と谷口悟朗監督による副音声コメンタリー上映を実施するなど、リピートにつながる施策も行われている。大晦日の紅白歌合戦をはじめ、年末の各局音楽番組でもウタが劇中楽曲を披露するなど、まだまだ話題は尽きない。興収200億円の大台や、歴代興収8位の『ハウルの動く城』(興収196億円)にどこまで迫ることができるのか、年明けも『ONE PIECE FILM RED』から目が離せない。

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