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爆音上映、初の海外開催へ!モスクワ・日本映画祭

舞台挨拶をする爆音上映の仕掛け人、樋口泰人(右)
舞台挨拶をする爆音上映の仕掛け人、樋口泰人(右)

 今年で第52回を迎えたロシアの日本映画祭(主催:国際交流基金)が、現地時間12月9日まで各都市で開催中だ。モスクワ会場(現地時間11月19日~12月2日)では、日本でブームになっている爆音上映が海外で初めて行われ、4作品の上映がいずれもソールドアウトとなる盛況ぶりだった。

 爆音上映とは、映画館に音楽ライブ用の機材を導入して音響セッティングを行い、大音量の中で鑑賞する上映システム。映画配給やイベント企画を行っている「boid」の樋口泰人が2004年から実施しており、音量を上げることによって迫力はもちろん、通常の音量では聞こえない生活音や息遣い、または思いがけないノイズも浮かび上がってくることから1つの作品を聴覚から再発見する楽しみがある。一般に浸透するまで14年の歳月がかかったが、今や全国の映画館やライブハウスなどへも普及している。

樋口泰人
数々の爆音上映を企画・上映してきた「boid」の樋口泰人

 これまでも海外の映画祭などから企画提案があったのだが、機材を手配する予算や音響調整に時間を要することからなかなか実現に至らなかったという。しかし今回は、日露間における人的交流の拡大を目的とした「ロシアにおける日本年」にあたることから、例年開催されている日本映画祭も規模を拡大。

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 『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)と『怒り』(2016)の上映にはそれぞれ黒沢清監督と李相日監督が舞台挨拶を行ったほか、日本独自のコンテンツである爆音上映が特別プログラムとして企画。現地でもそのまま「BAKUON」として紹介されている。

カロ・オクチャーブリ劇場
爆音上映(現地時間11月30日~12月1日)は4回ともソールドアウトとなった。モスクワのカロ オクチャーブリ11劇場にて。

 上映の対象作品は、トラックメーカーで音楽プロデューサーでもあるtofubeatsが初めて映画音楽を手がけた濱口竜介監督『寝ても覚めても』、音楽が物語のカギとなる湯浅政明監督『夜明け告げるルーのうた』(2017)、音楽家・坂本龍一のドキュメンタリー『Ryuichi Sakamoto: CODA』(2017)、SFアクション大作『いぬやしき』。樋口と映画祭スタッフが現地からの要望や、爆音が生かせる作品を熟考した末の、厳選した4本だ。樋口はサウンド・エンジニアと共にモスクワ入りし、上映開始ギリギリまで音響調整を行った。

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 「通常のシネコンの営業時間の合間を縫って音響調整するのは、待ち時間も長くてなかなか苦労しました(苦笑)。でも日本が100Vに対してロシアは220Vと電圧が高いので、『夜明け告げるルーのうた』の冒頭のベース音からして勢いが違う。気持ちがいいですね」(樋口)、と万全の体制で挑んだようだ。

 その結果、海外の上映では滅多に見られない光景が生まれた。国際映画祭でもエンドロールが流れると観客が退場してしまうのが常だ。しかし『Ryuichi Sakamoto: CODA』ではほぼ全員がエンディングの曲に耳を傾け、場内が明るくなると自然と拍手が沸き起こった。さらに、もっとも爆音の特性を体感できる『いぬやしき』の上映後には、観客が樋口の元へやってきて「すごかったー!」「素晴らしい」と興奮しながら賛辞を述べていった。

第52回日本映画祭(ロシア)ポスター
第52回日本映画祭(ロシア)のポスター

 樋口は「『Ryuichi Sakamoto: CODA』の中でも語られているように、坂本さんはアンドレイ・タルコフスキー監督『惑星ソラリス』(1972)のサウンドトラックに影響を受けてオリジナル・アルバム『async』を制作しています。昔のロシア映画はスタジオがいいのか、音がいい。今度はここロシアで、ロシア映画の爆音上映をやってみたい」と新たな野望を語っていた。BAKUONが世界の共通言語となる日もそう遠くはなさそうだ。(取材・文:中山治美)

第52回日本映画祭は現地時間12月9日までサンクトペテルブルクで開催中

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