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キム・ギドク監督が明かす、ベネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作品『嘆きのピエタ』とは?

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キム・ギドク監督
キム・ギドク監督 - Angela Weiss / Getty Images

 映画『春夏秋冬そして春』で世界的な注目を浴び、その後世界中の映画祭で活躍する韓国出身のキム・ギドク監督が、ベネチア国際映画祭の金獅子賞受賞作品『嘆きのピエタ』について語った。

映画『嘆きのピエタ』場面写真

 同作は、身寄りもなく、孤独に生きていた借金取り立て屋イ・ガンド(イ・ジョンジン)は、債務者たちが借金を払えなければ、労災保険をかけさせて腕を切ってしまうほどの極悪非道な行為を繰り返していたある日、彼の前に母親だと名乗る女性(チョ・ミンス)が突如現れる。当初は、疑念を抱いていたガンドだったが、この女性から注がれる愛情に次第に心を開き、生まれて初めて自分の行為を見つめ直した矢先、女性の行方がわからなくなるというドラマ作品。母親と名乗る女性の心理が胸を打つ映画だ。タイトルの「ピエタ」は、聖母マリアがイエスの亡きがらを抱く絵画や彫刻を指している。

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 母親と名乗り、ガンドに近づく女性役を演じたチョ・ミンスは、テレビ作品には出演しているが、ほとんど映画に出演してない。そんな彼女の起用について「彼女のキャリアはずいぶん長い間、テレビ番組を通して知っていて、いつも彼女を観るたびにエネルギーがみなぎっていると思っていた。女優としては、まるで“かまど”のような熱い心を秘めているんだ。僕が期待した通りの素晴らしい仕事をしてくれたことに感謝しているよ」と語った。

 映画内では、さまさまな作業をする債務者たちの工場が出てくるが、ギドク監督が監督になる前に工場で働いていた経験が反映されているのか。「僕は16歳のときに工場で働き始め、様々な機器の使い方を学ばされた。だから、この映画で使用された機器もほとんどなじみのあるものだっため、過去の体験が大変役に立ったと思っている」と答えた。また、工場が連なるソウルの清渓川(チョンゲチョン)には、壊れそうな建物と高層ビルが対極していて面白い。「わたしは機械の原理は人間生活と同様だと思っていて、そのようなマントラ的な発想を念頭に入れながらこの映画を製作していた。特に清渓川付近の背景は、皮肉なことに老朽化した家と高層ビルが同居し、ある意味では、極端な韓国資本主義の象徴とも言えるかもしれない」と辛辣(しんらつ)な見解を示した。

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 ギドク監督作品群は、宗教的な観点が共通して含まれるように思える。「わたしにとって救いは、人間同士の信頼だと思っている。でも人生の過程は、徐々に神が存在しないことを、認識していくことでもあると思っているんだ」と語り、最後に自身の母親については「わたしの母親は、ひらめきを持った聖人のような人物で、わたしの半分は暴力的な父親の影響で、もう半分はそんな良い母親の影響なんだ。だから、僕の映画は残酷だが、温かみもあるのは、その両親の影響によるもだと思っている」と明かした。

 映画は、真の愛を受けたことがなかった極悪非道な男が、母親と名乗る女性からの愛情によって初めて守るべき存在を知るが、その愛情の真意と心理の裏側にあるものが興味深く描かれている。(取材・文・細木信宏/Nobuhiro Hosoki)

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